君に服を贈る理由
「!? ごめんなさい!?」
「なに謝ってんだ」
咄嗟に飛び出した謝罪の言葉に、ドスの効いた声が突っ込んだ。嫌だこんな怖い突っ込み、と思っても口には出せない。怖いから。
身を引こうにも左腕は相変わらず固定されている。動けない。逃げられない。
涙目になってきた帝人に、静雄は押し殺した声で囁いた。
「ノミ蟲なんぞの買った服を着ようってのか? 毎日。日中ずっと」
「え? ええ?? 服には罪はありませんよ? お金を払ったのが誰にせよ。縫ったのが臨也さんとか言われればさすがに問題がありますが」
「気持ちの悪ィこと言うな。吐き気がする」
誤魔化すように話を逸らしてみたが、やはり無理だった。静雄の表情が益々険しくなる。逸らし方がおかしかった所為だろう。
「同感ですが、ですから――」
「誰が買ってもいいんなら、俺が買ってもいいだろーが。俺が買ってやる。俺に買わせろ」
血管の浮き出た顔のまま言うにはおかしな台詞だ。なにかがおかしい。どこからおかしくなったのだろうか。
現実逃避気味に考えてみた帝人だったが、わかる筈もない。
「いえですから平和島さんの責任ではないので――」
「んなこたぁどうでもいい。ノミ蟲から受け取ったモンを身に着けんなっつってんだ」
「え、問題はそこですか? いつからそういう話になったんですか? 違うでしょう? 要点は違ったでしょう?」
「ああ、もう連絡先とか面倒臭ェ。サイズいくつだ。業者に言ってすぐに持ってこさせる。でも連絡先は寄こせ」
「なにかおかしな風に話が曲がってませんか? 平和島さん?」
「業者は来良に行きゃわかるか。行くぞ」
「待って下さい! 着替えたいって言うか目立ちたくないって言うかこのまま学校ってどんな罰ゲームですか!?」
唯巻き込まれただけの非日常を引き連れたまま、日常の象徴である学校まで引きずり戻され、帝人は今度こそ本当に泣きそうになった。