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キンタロスは浴槽に浸かりながら、上機嫌そうに彼らしい演歌節の鼻歌を歌っていた。モモタロスやウラタロスには煩いと嫌がられてしまうが、キンタロスは風呂で歌う鼻歌というものが好きだった。熱い湯に浸かりながら、大声を張り上げて歌を歌うのはなんとも気持ちが良い。加えて、濡れタオルでも頭に置いていたらもう最高だ。以前ウラタロスにそう言ったところ「キンちゃん、親父くさいよ」と苦笑されてしまった。自分自身でもその通りだとは思う。イマジンとして今の時間に来るまでの記憶の無いキンタロスは、当然ながら自分の正確な年齢も解らないが、もしかしたらそれなりに歳がいっていたのかもしれない。
「あれー、くまちゃんだ！」
　大声と共に、思い切り風呂場の扉を開けて入ってきたのはリュウタロスだった。腰元にタオルを軽く巻き、片手にアヒルの玩具を持っている。先客が居る事に驚いたのか、眼を丸くしてキンタロスを凝視していた。思考と鼻歌を止めて、キンタロスは片腕を軽く上げた。
「おう。リュウタも風呂か？」
「うん！」
　何が嬉しいのか、ニコニコと笑いながらリュウタロスは頷いた。駆け足気味に浴槽へと近寄ってくる。
「こら、リュウタ。風呂場で走ったらあかん。こけるで」
「だいじょーぶだよ！」
　リュウタロスが自信たっぷりに答える。事実、リュウタロスの足取りは滑りやすいタイルの上とは思えないほどしっかりしていた。彼の優れたバランス感覚のおかげなのだろう。
　乗務員・乗客共同という事で、デンライナーの浴場はそれなりに広い。ちょっとした大衆浴場並みだ。壁際にはシャワーヘッドが幾つか並び、風呂桶や風呂用の椅子も隅に積まれている。リュウタロスは桶を手に取ると、風呂の湯を掬って体に引っ掛けた。それから不意に、悪戯する子供のように唇へと三日月型の笑みを浮かべた。気付いたキンタロスが口を開く間もなく、リュウタロスが浴槽へ飛び込む。幾らリュウタロスが無邪気な子供だとしても、体付きはモモタロスたちと大差ない。当然、浴槽には盛大な水しぶきが立った。
「まったく、リュウタはいつも元気やなあ」