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胡蝶の夢の欠片

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 全てにちゃんと理由があるなら、そしてそこから解決策を導き出すことが出来るのなら、この世の中かこんなにも混沌としてはいないだろうし、自分がこの部屋に足を運ぶことだってないのだろうと、ふと思った。
 帝人が臨也とこうして会うようになってから、決して短くはない月日が経っていた。習慣でも日常の1ページでもない筈なのに、季節が変わり環境が変わった今も、こうしてわざわざ男に抱かれる自分を、愚かだと思ったのは一度や二度のことではない。
 始まりは、自分からだった。此方から提案しなければ実現することなど到底ありえない関係を、持ち掛けたのは。冷静になったその日のことを思い返すに、当時の自分は相当切羽詰まっていたのだろうと、どこか他人事のように振り返る。
 叶わない恋だということはその気持ちを自覚した瞬間からあったもので、だから下手に期待などすることもなく、いつか時間が解決してくれるだろうと思っていた、あの頃。
 数える程しか会ったこともなく、交わした言葉も味気無いものばかり。それでもどうしてか加速的に惹かれていく自分に、戸惑ったこともあった。これは恋なんかではなくて、非日常を体現する存在に対する憧れなのだと、自らに言い聞かせたこともある。
 けれど、唯一の繋がりとも言えるダラーズから静雄が去り、同僚として毎日のように傍にいる長身の美女を見てしまった時、湧き上がった醜い感情が、これは恋なのだと告げていた。
 しかし、自覚したからといってどうすることも出来ない。性別以前に自分と彼が釣り合うとはとても思えなかったし、平穏を求め日常を愛する人間と素知らぬ振りで付き合いが持てるほど、己の神経が太いとも思わない。
 それでも想いは募るばかりで、ダラーズのゴタゴタで神経が参っていたこともあるのだろうが、よりにもよってあの折原臨也に助けを求めてしまった。あのカラオケルームでの出来事は地中深くに埋めてしまいたいくらいだが、唯一の救いは臨也がいくらか取り乱していたことだろうか。尤も、いきなり男に抱いてくれと頼まれて即快諾するような相手なら、帝人だって今後の付き合いを考える。
 愛が欲しいんです、と正直に告げた帝人に、臨也は少なからず興味を抱いたようだった。人間を愛する臨也にとって、普通は見ることの出来ない表情や感情に触れることが出来るのは貴重だったのだろう。

 ――良いよ、帝人君。俺が君を、愛してあげる。

 その台詞から始まった関係は、泥のように穏やかに沈んでいくものだと、帝人はわけもなく信じていたのだ。
 誤算だったのは、臨也が紳士的に、まるで恋人にでも接するように帝人を扱ったこと。
 予想外だったのは、もう二度と交わることなどないと思っていた静雄と、気持ちが結ばれたこと。
 夢にも思わなかったのは、思い人と両想いになった今でも、臨也の元を訪れているということ。

 ――帝人君は、どうして俺に抱かれるの。

 もう何度目の夜か忘れてしまった頃、一度だけそう訊ねられたことがある。静雄と付き合うことになってからのことだ。
 帝人は臨也にそのことを告げてはいなかったし、静雄が教えるとも思えないから、きっと臨也は偶然それを知ったのだと思う。今更身辺調査されるほどの価値が自分にあるとは、帝人は到底思えなかったので。
 帝人は何も言わなかった。言えなかった、と言った方が、この場合は正しい。そんなことを臨也に訊かれると思っていたからというのもあるし、明確な答えが自分自身分からなかったこともある。
 そう、帝人は分からなかったのだ。ずっと好きだった静雄と結ばれた後も、どうして臨也抱かれに来るのか。常識や倫理に当て嵌めて考えた時、これは間違いなく静雄に対する裏切り行為だということは、分かっている筈なのに。
 静雄は優しい。いつも此方を気遣ってくれていて、大切にされているのが言葉にされなくても分かる。傍にいると安心して、温かい気持ちになる。
 それでも、時々思い出したように不安に駆られることがある。このまま一緒にいてはいけないと、この人の隣にいるべきなのは、自分ではないのだと。静雄は帝人が今までダラーズを使ってしてきたことを知らない。だから好きだと言ってくれている。
 けれど本当に問題なのは、そのことに対して後ろめたさを感じながらも、ダラーズを手放す気が微塵も無いことだ。静雄と一緒に、平穏な日常に価値を見出し、非日常を捨てる覚悟がないことだ。
 矛盾して、不安定で、頼り無い。それが帝人だ。穏やかな日々を願いながら非日常の刺激を求め、誰かの為と言いながらそれを免罪符にして己の理想を追い求める。
 そんな帝人を、臨也だけは受け入れてくれた。否定しないでくれた。帝人の全てを知った上で、それでも愛してくれている。
 臨也のことを愛しているとは言わない。けれど、本当に帝人が欲しいものを、この世で臨也だけが与えることが出来る。

 だからきっと、帝人は確かめる為にこの部屋を訪れるのだろう。

 分不相応だと知りながら、それでも光を求め全てを捨てて這い上がるか。
 背徳だと知りながら、愛する人も大切な友人の手も振り払って堕ちていくか。
 静雄が目を覚ませと怒鳴ってくれたなら、臨也がもう戻れないのだと手を引いてくれたなら。
 自分の中の天秤はどちらに傾いているのか、本当に求めているのは何なのか。
 それを確かめる為に、帝人は今夜も臨也に会いに行く。
作品名:胡蝶の夢の欠片 作家名:yupo