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Message From The Moon

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ジャック・アトラスには友人がいなかった。幼年だというのにも関わらず、わが道をゆく思考回路と抜きん出たデュエルの腕で周囲から尊敬と畏怖の入り交じった視線を向けられ敬遠された。両親はそんな彼にもっと他人と接するよう言い聞かせたが、そんな事をジャックが聞くはずも無く、また自ら友人が欲しいとも思わなかったので何を変えようともしなかった。
 だからその日も、彼はたった一人でドミノシティの人気の無いところをふらふらとさ迷い歩いて、道端の石ころを蹴飛ばし、迷子の猫を追っかけまわし気づけば見知らぬエリアにまで来ていた。地平線の上で、真っ赤な太陽が夜に押しつぶされてたまるかとばかりに頑張って光を投げかけてきていたが、段々と辺りは暗くなりほとんど夜に近い。早く帰らなければきっとまた父と母に叱られるだろう。ジャックは「全くお前は」という言葉が大嫌いだった。お小言が始まるときに必ずくっ付いてくる言葉だ。
 路地の向こうを、数人の子供がはしゃぎあいながらかけていく。恐らくジャックと同じ年頃だろう。彼はそれを睨むようにしてみた後、ふんとそっぽを向く。そのまま見上げた、高いビルたちに囲まれている小さな空には今にも消え入りそうな光がぽつりと一人ぼっちで輝いていた。
(お前もか)
 そう思ってからジャックは慌てて首を振る。これじゃあまるで自分まで一人ぼっちを寂しがっているみたいだ。オレは一人の方がいいんだ、キングになる男は仲良しこよしなんてしない!
 それでも何故だか無性に逃げだしたくなって、ジャックは急いでその場から走り去ろうとした。瞬間、まるでそれを見計らっていたかのように一歩踏み出した彼の頭の上にパサリと乗っかるものがある。
「うわっ!」
 慌てて頭を無茶苦茶に払うと、乗っかったものはひらりと地面に落ちた。マジック&ウィザーズのカードだ。風に乗って飛ばされてきたのだろうか。ジャックはそれを拾い上げた。カードは見たことも無いものだった。キラキラと輝いていて、今まで見てきたどんなレアカードとも違う美しさが溢れてくる。それと同時に、カードには紙切れが一枚くっ付いていた。画用紙か何かを破ったものなのだろう、歪な形をしたそれには、下手くそな字でこう書かれている。

『おとしもの ひろったらとどけてください』

 一番星がきらきら瞬く、静かな夜の事だった。


 * * *


 それから数年たっても、やっぱりジャック・アトラスには友人がいなかった。成人を間近に控え、相変わらずわが道をゆく思考回路と抜きん出たデュエルの腕は、人々の感情を畏怖から魅了へと変え、いつしか彼はシティでも名の知れたデュエリストになっていた。
 その日はシティ中をあげてのトーナメント大会だった。優勝したものがデュエルキングの称号を手にする名誉ある大会だ。勿論ジャックはこれに参加し、さらに決勝戦まで駒を進めていた。
 決勝戦で当った男は、どこぞの地区でデュエルチームのリーダーをしているという男だった。ライディングデュエルで始まった二人の対戦は始終互角のまま。激闘は長く及んだが、ジャックのシンクロ召喚で幕は下りた。彼に勝利をもたらしたのは、まるで星のように煌き瞬く見たことも無い美しいドラゴンだった。
 スターダスト・ドラゴン。名を知っているものは少ないが、カード名の欄にははっきりとそう記述してある。ジャックは箔押しの文字を眺めながら、じっと一人佇んでいた。デュエルキングになってから与えられた地位は驚くほど素晴らしく、最高生活区域のトップスと同等、またはそれ以上と言っていい。ひとりで生活するには大きすぎる空間、陽の光が目一杯入ってくるガラス張りのフロアデザイン、大きく柔らかいソファー。収入だって父より稼いでいる。けれど彼にとって重要なのはそんなもの達ではなくて、今この手の中にあるカード、スターダスト・ドラゴンだった。このカードが彼をキングの玉座へと導いた。数年前、空から降ってきた『落し物』のカードが。
 カードを拾った当時、ジャックは勿論落とし主を探した。けれど辺りは闇に包まれ始めた夜の事、人気も殆ど失せた街の中でカード一枚の落とし主が幼い子供に見つけることなどできるわけが無い。結局カードの持ち主を見つけられなかったジャックは、そこでふと思ったのだ。これは、空からのプレゼントだ。スターダスト・ドラゴンだもの。星の神様からのプレゼントなんだ。もしかしたらお星様を沢山持ってるお月様からのプレゼントかもしれない!その晩、幼いアトラス少年は部屋の窓から見える月を飽きずにずっと眺めていた。数年経った今ではそんなお伽噺じみた事は思っていないが、どこかにいるだろうカードの持ち主は未だに見つかっていない。
「アトラス様?」
 物思いに耽りすぎていたのか、突如背後から聞こえてきた声にジャックは肩を震わせ振り返った。そこには御付の狭霧が紙束を抱えたまま心配そうな表情でこちらを見上げてきている。「どうか、なさいましたか?」やはり物思いがすぎたらしい。
「いや。どうした」
「あ、ハイ。アトラス様に……お手紙が」
「手紙?」
 ネットワークが発達したこのご時勢に?という意味合いを込めて繰り返すと、狭霧も同じような考えなのか大層複雑そうな表情で「そうです」と肯定して薄茶の封筒を差し出してきた。よく見る長形四号の縦長封筒には、治安維持局の住所の横にジャックの名前が明記されている。差出人名は、無い。
「一応の検査の結果、入っているのは一枚の便箋だけのようです」
「心当たりが無いな」
 それでも中身が気にかかったジャックは、きっちり糊付けされたそれを開封して中の便箋を取り出した。真っ白で、逆に寂しくなるくらいシンプルな便箋には、黒いインクで几帳面そうな文字が並んでいる。
『拾ってくれてありがとう。貴方だったのですね。大切に使ってください。』
 ジャックは目を見開いた。字体は随分変わったが間違いない。
「狭霧」
「はい」
「この手紙の差出人は全くわからないのか」
「え、ええ」
「……少し出てくる」
「え!あ、アトラス様?」
 慌てて止めようとする狭霧の声には耳も貸さず、彼は転がり出るようにして部屋を飛び出していた。D・ホイールに跨って、起動するまでの時間さえまどろっこしいと舌打ちを一つ。酷く乱暴な運転で街へと飛び出すと、ジャックは一目散にあの場所へと向かっていった。落し物を拾った場所へ。
 ドミノシティの一角、高いビルが立ち並び人気の無い路地裏。幼い頃と全く変わらない光景はまだそこにひっそりと存在していた。誰もいない。ジャックはため息をついてヘルメットを脱いだ。落とし主がいるはずなんて無いのに、どこか期待していた自分がいる。彼は急いだまま手に持ってきてしまった便箋を見下ろす。几帳面な字。男なのか女なのかさえわからない。こんな短い文じゃ、名前も性格も人相もわからない。手紙を見れば見るほど、ジャックはこれを書いた主を、カードを落とした主を知りたくなった。何とかしてこの人物との繋がりを保っていたい。柄にも無い思考だと彼は自分で自分を嗤った。それでも体は止まらずに、手近にあった白い小石を拾い上げて地面へと文字を書いていく。
『カードを返したい』
作品名:Message From The Moon 作家名:enk