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Message From The Moon

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 言うなり遊星はジャックの手をとり歩き出した。ルドガーと軽く会釈を交し合う黒い頭髪がひょこんと揺れてなんだか愛らしい。そう感じてから、ジャックはふと遊星に対して自分が酷く愛しみのようなものを抱いていることに気がついた。何を思ったのか、自分でも分からないまま手首を捕らえている一回り小さい彼の手を取り握る。遊星は一度驚いたように歩を緩め、けれどそれからふっと微笑を零しただけでまた歩き出す。何故だろう、その行為にジャックまで微笑ましくなった。
 遊星は、ビル内にある研究員の休息所として設けられた小さなカフェの一角にジャックと座った。改めて互いに向き合って座ると、体中がこそばゆくなって仕方がない。初めて味わう居心地の悪さに、ジャックは思わず腰を浮かせて座りなおした。二人は何も喋らない。気まずいまでの沈黙が流れた。真正面から向き合うのだって居心地が悪いというのに、その上無言が続けばさらに居心地が悪くなる。ジャックはもう一度座りなおした。鼻の頭に、じんわりと汗が浮かんでくるのを感じる。
「……オレはな」
 息苦しさの最中、彼はまずそう口を開いた。俯いていた遊星の顔が上がる。くるりと光の泳いだ夜空の瞳と視線が絡んで、彼は無意識に顎を引いた。
「お前に、会いたかった」
 焦る最中、ぷっつり途切れて白くなった思考回路の中、初めに口を突いてでた言葉はそれだった。ひくん、遊星の髪が揺れる。
「お前の手紙を読んで、お前を一目でいいから見たかった。返せといわれても返さなくていいといわれてもそうするつもりだった。手紙を読めば読むほど、無性にお前に会いたかった」
 いつの間にか遊星はジャックから再び視線を外し、左下へと逃がしていた。ジャックの視線から逃れようとしているように見える。遊星はそのまま暫く動かなかったが、やがておずおずといった様子で顔を上げると、ジャックの方をまっすぐ見つめてきた。
「……オレは」
 先ほどの彼の声とは打って変って、その言葉は酷く掠れ小さいものになっていた。
「オレは、友達が、欲しかった」
 遊星は幼い頃からずっとMIDSの中で育っていたという。周りは研究員だらけで同じ年頃の子供はおらず、デュエルをする相手も決まっていた。父と同じ研究員になることは受け入れられていたが、デュエルには退屈を感じていたと彼は言葉を紡ぐ。
「だから、スターダスト・ドラゴンを拾った誰かが届けにきてくれることを期待して、窓から落としたんだ」
 しかしスターダスト・ドラゴンはモーメントの制御装置を管理するための鍵となるカードであり、後々遊星は父にこっぴどく叱られたらしい。そして。
「そして、先日トーナメントの決勝戦で、そのスターダスト・ドラゴンが召喚されて勝利を収めていた」
「…………」
「デュエルキング、ジャック・アトラスのカードとして」
「なるほど」
 伏せがちの顔の、前髪の下から伺うような視線を投げかけてくる遊星に、ジャックは微笑んだ。
「オレも、友人が欲しかったのかもしれん」
「…………」
 ジャック・アトラスには友人がいなかった。幼心で既にデュエルで頂点に立つと豪語していた彼は、そのプライドの高さから他人に妥協をしなかった。それで当然と思っていた。けれど、やはり彼も人の子であったためどこかで寂しさを感じていたのだ。あの日一番星を見上げた日、カードを探しているものがいると知った日。少しだけ、誰かに出会える事を期待していた。
「まさかこんな奇妙な成り行きで出会うことになろうとは」
 随分時間がかかってしまったが、それ故に感慨も大きいものだなとジャックは笑う。遊星もそれにつられた後、身じろぎをして座りなおすと身を乗り出してきた。
「今はデッキが無いんだが……オレと、デュエルをしてくれないか」
「勿論だ。いつでも受けてたつ。オレは、お前の友人なのだから」
 迷い無く差し出した手を遊星はきょとんとした顔で見ていたが、すぐに意図を解したのかジャックの手を硬く握り返す。力強く一回交わされた握手の後、遊星はまた少しだけ俯き「ただ」と言葉を続けた。
「……友人というのは、なんだかとても恥ずかしいものなんだな」
「…………そう、だな」
 思わずジャックも視線を逸らし、そのまま二人はふと笑う。
 ジャック・アトラスに友人ができた。静かなカフェの片隅で、数年と数えられるほどの手紙を経て出会った二人は、しかし心に抱く感情が友情というには少しばかり入れ込みすぎたものだとは未だに気づきはしない。
作品名:Message From The Moon 作家名:enk