Second to None 後編
「だから私、最後にもう一つだけワガママを言わせてください。私も、できるならアルフレッドさんの近くへ葬ってはくれないでしょうか。けれど私の形は残さないで欲しいのです、私はアルフレッドさんの功績を汚すものにはなりたくありません。だから頭蓋骨を粉にしたものでも、四肢に組み込まれた鉄の一欠片でも、回路の一本でもいいんです。どうかアルフレッドさんの近くに居させてはもらえないでしょうか。アーサーさん、ごめんなさい。全部あなたに押し付けて、私は逃げることしか、頼ることしかできなくて。でもどうか忘れないでください、私が二度生きたことも。二度目が決して何の意味も無いことではなかったことも。けれど繰り返してはいけないということを、どうか覚えていてください。ごめんなさい、アーサーさん。ごめんなさい、いくら謝っても言い尽くせることではありませんよね。ごめんなさい、でも、どうか私をアルフレッドさんの近くへ。それと、」
そして残り十秒。
「アルフレッドさん、アーサーさん、だいすきです」
「菊!」
アーサーは振り返る、その時菊の体が大きく跳ねた。手のひらのタイマーがピーピーと警告音を鳴らす。菊の体内で小さな爆発が起こったことを知らせる音が響いて止まない。アーサーはタイマーを投げ捨てるように放り、菊へ走り出す。停止した菊は重力に負けるように、うな垂れるように、無機質を感じさせる倒れ方でぐんぐん床に近づいていく。アーサーは身をかがめて腕を伸ばして菊を抱きとめようとしたけれど、それから逃れるように菊は床に倒れた。ゴトン、とそれは生身の人間が倒れる音とは全く異なる音を立てて、静かに横たわる菊。アーサーは膝が抜けたようにしゃがみこんだ。叫びたい、泣きたいと思ってはいたが予想外の衝撃に、ただ開いた口さえ閉じることもできないまま、アーサーは漸く涙を一滴流し、それから決壊が壊れたように泣き崩れた。だがアーサーは決して、再び菊を直して目覚めさせたい、と思うことは無かった。
その後へつづく
作品名:Second to None 後編 作家名:こまり