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鳩の魂

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「少しいいか」
 デミアンが、やけに深刻な顔をして俺の部屋を訪ねてきた。片手には安酒のボトルを携えて、彼自身も安っぽいアルコールの匂いを漂わせて。部屋の中に招き入れ、椅子を出してやると、彼は深刻な表情を崩さずにその椅子に浅く腰掛ける。
「酔ってるな、ディミー」
「そうだな。まだ酔いたいんだ」
 少し表情を和らげて、デミアンは片方の眉を上げてみせる。その顔があまりにも疲れていたから、笑顔を返していいものかどうか迷った挙句、ぎこちない表情を浮かべてしまった。
 母親が足を痛めたという知らせがあってから、デミアンは彼女を心配するあまり普段の快活さを失っていた。日頃の疲労が更に色濃く表情を蝕ばんで、彼を知っているものにとって近頃のデミアンは、いささか異様な雰囲気に見えてはいた。酔いたいと思うのも当然か、とおれは思うが、酩酊に逃げたところで安息はないらしく、彼の表情はまるで重病人か死神かというようなものだった。
「酔いたいんだ、か。振られたのか?」
 デミアンのボトルを奪い取って、おれのグラスをアルコールで満たす。彼はその様子を黙って見つめたあと、ボトルを取り戻して、直接中身をあおった。それは酔うだろう、と思うが、口出しはしない。ただ、彼の無茶な飲み方に巻き込まれて、おれまで酔っ払ってしまわないように気をつけなければいけない。
「ジンジャーのことを思い出したのさ」
「なんだって?」
「俺が昔飼ってた犬だ。もう、ずっと昔に」
 その犬がもうこの世にはいないことなど、先を聞かなくても判る。当然だが、これは暗い話なのだと覚悟した。 そして、彼の精神状態があまりいいところにないということも。それはきっと彼自身が最も了解しているだろうが。
「その犬が、どうした」
「ジステンパーで死んだんだよ。隣に住んでた人が教えてくれた。注射しないと死ぬぞってな」
 ほら見ろ、とおれはいくらか自暴自棄に思った。それと同時に、デミアンの表情がますます曇っていくのをなすすべもなく見ている自分をふと意識した。
「本当だったよ。どんなに一生懸命看病しても、あいつは痩せ衰えていくばかりで……」
「……そうか」
「あいつが死んだとき俺は、俺が大人だったら何とかできたに違いないって思ったんだ」
「……それは、そうとは限らないが」
「まあ、そうだな。俺は今でも何も変わってない」
作品名:鳩の魂 作家名:nabe