鳩の魂
下手な相槌を打ってしまったと多少自己嫌悪に陥る。けれど今の彼は多分、……言い訳めいた考えになってしまうが……何を云っても落ち込むことしかしないだろうと思った。だってそのために酒を飲んでいるのだから。普段着込んでいる鎧を脱ぎ捨て、脆い肌に罪の意識を突き刺すために。
何と不健全な酒なのだろう。それは逃避ですらない。
「あのときと同じ気持ちだ。もう、こんな思いはしたくなかったのに……」
「もう、何も考えるな。酔っ払ってるんだから」
デミアンは母親のこととその犬のことを重ねているのだろう。そこにいるのは確かに、当時の無力感をたたえた子どもだった。一人でいるのには耐えられないような孤独な子ども。ただでさえ普段から自分は無力であると痛感している彼がこれ以上の苦悩に晒されるのは、何だか不公平な気がした。けれどそういった悩みは誰しもが抱えているものでもある。他人から見れば誰の重い悩みであっても、それが他人であるかぎりは、どれも似たようなものなのだ。
「考えたくないよ、俺だって。でも、考えてしまう」
「おれが楽しい話をしてやるから」
「……今は笑えないと思うし、それじゃもったいないだろ」
ジョーは優しいなと微笑まれて、じゃあどうすればいいんだ、とおれは途方に暮れた。
デミアンは自分の無力感を嘆くが、本当に無力なのはおれみたいな、本当になんの役にも立たない人間だ。どうでもいいときばかり誰かを笑わせることができても、肝心なときにこうして励ましてやることも、あるいは忘れさせてやることもできない。優しいという評価を得たところでそれでどうなるわけでもないし、それにおれは優しいわけでもないのだ。おれには何の力もないし、何も残っていない。
「ディミー、」
「悪い。自分でも、どうしていいか判らないんだ……酔ってるからかな」
ふざけたように笑ってみせるが、その顔は明らかに自虐的な色を滲ませている。笑いに紛れて痛みをなかったことにしようとしている自分を、嘲っている。不幸なことに彼はそういう男なのだ。よるものを持たず、支えるものも持たず、自分の足で立たねば気がすまない。そのくせ驚くほど脆い。
黙って肩を抱いてやると、彼は一瞬身体を強張らせ、それから少し肩の力を抜いた。
「まだ話すか」
「……いや、もういい」