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novelistID. 1345
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ロリポップ・キャンディ

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「花礫くんさァ、俺の恋人になってよ」

 俺が本を捲っていた卓に、ひょっこりと顔を出した金髪はそんな頓狂なことを言いながら、ガタンと音を立てて、何の断りもなく俺の目の前に腰掛けた。

「はァ?!」

 その言葉の突拍子もなさに(コイツの言動が突拍子もないのは割といつものことではあるが、このテの笑えない冗談を口にするヤツではない)、俺は思わず声を上げて、読んでいた本を閉じた。コイツや无が居た所では軽い読み物なら兎も角、技術書などの本を読むのには向かない。と言うよりも読めない。
 彼らはいつも騒がしく、俺の領分を勝手に侵してくるので。

「だからね、俺考えたんだよ」

 頬杖をついて、何処か楽しそうに言う姿はまるで棒付きキャンディーを与えられた子供で、自分が彼よりも遥かに年下だということを思い出す度に苛つかせる笑顔で、そいつは言った。

「何を?」
「俺がサ、二倍花礫くんのこと好きになれば良いんじゃないかってことを、デス」

 訊かなければ良かった、と思っても、時既に遅く、與儀曰くの名案に頭痛とも眩暈とも知れない感覚が俺を襲って、思わず額に手を当てる。爪の先がゴーグルのレンズに当たって軽い音を立てた。

「つまりね、ひとり分の『好き』だと片思いな訳じゃない? じゃあふたり分の『好き』なら両思いってことだよね」

 薄い綺麗な菫色の両目は、にこにこと笑いながらも真剣で、彼がそれを口にしているのが嘘や冗談ではないと教える。だから俺は口まで出掛かった「莫迦か!」と言う言葉を飲み込んで、代わりに眉間にぐっと皺を寄せた。
 コイツが莫迦なのは今に始まったことではない。本当に成人男子か、と疑いたくなるような莫迦げた発言は彼の得意技で、それに一々付き合っていては身が持たない。それを咄嗟に計算ではなく感覚で悟って(それはそれで、日常レベルに與儀が換算されているということで、非常に不快だったが)、俺は「ふぅん」と曖昧に言葉を濁した。

「だから、俺が花礫くんの分まで好きになるから、恋人になってよ」

 何がどう「だから」なのか皆目見当も付かなかったし、付けたくなかったが、どうやらそれは彼の中では既にひとつの『解答』として定義されてしまっているようだった。

「意味判んねェ」