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novelistID. 1345
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夜明けぬ花

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夜のしじまにひたひたと月の光が滲んでいた。
 隣にあるのは他人ではないような、けれど他者である幼なじみの体温だ。彼は時折「寒いから」という言い訳を引っ提げて、この部屋を訪ねて来る。
 埒もない、そんな言葉。本当はいつでも受け入れてやる用意はあるのに、銀時はそれを言い出せずにいた。それを言えば、この感情に名前を付けなければならなくなるからだ。胸の奥に知らぬ間に芽吹き、根を張り、今やいつそれが生まれたのか、己自身でさえ判らぬちいさな花に、名を付けてやらなければならないからだ。
 その花はやわらかな薄紅色をしている。
 それを嫌だな、と銀時は思っていた。色ならば赤が良い。鮮烈な、残酷な、まるで夜を引き裂く来光のような、逢魔ヶ刻の空のような、そんな赤が良かった。
 それならば何の躊躇いもなく、その花を引き千切り『未練』と名付けて、記憶の闇に投げ込むことが出来た。
 桂小太郎を『旧友』として、少し迷惑な顔をしながらも、いつでも来いと迎えてやることが出来た筈だ。
 けれどその花は、抜けるように白い少女の指先に僅かに射す紅色のように、はかなくて繊細な色をしていたから、銀時はそれに手が出せずにいた。
 それもまた嫌だな、と思う。
 受け身でいるのは性分に合わない。
 自堕落でいるのと、受け身なのとは似ているようで、多分全く違う。その自らを内に、内に、閉じてしまう臆病さを銀時は嫌って、時折無意識に花の側へと寄ることがある。
 けれど結局はそれをまじまじと見詰めることさえ出来ずに、ただ絡み付く芳香に背を背けて今日までを生きてきた。今こうして、おさななじみの体温に背中を晒すのと同じように。見ぬよう、感じぬよう、触らぬように生きてきた。
 いつか、もしかしたら、彼や自分以外の誰かが、己の内に住まう未練がましい感情に決着を着けてくれるのではないかと、僅かではあるが確かに期待もしていた。けれど、そんな日は永劫来ないと知ってもいて、埒もない願いに溜息が漏れる。

「眠れぬのか?」

 不意に掠れた声が背に掛かる。知っていた筈なのに、知らぬ間に沈んでいた思考は彼の存在を忘れさせていて、肩が驚きに跳ねた。身動ぎをする音と共に自分のものではない体温が寄り添って、銀時は自分が憐れみを施されていることに気付いた。
 それは温かく、やさしく、振り解くことは叶わない。