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novelistID. 1345
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夜明けぬ花

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「なんだよヅラ、お前の布団も敷いてやっただろう。戻りやがれ」

 けれど情けに縋ることを簡単には良しとしない強情が、その温かさを受け入れることを拒む。並んで延べられているだけの、冷え切っているだろう布団に戻れと言うと、ちいさく笑いが落とされた。

「良いだろう。今日は寒い」

 銀時の言葉には取り合わず、聞き慣れた理由にもならぬ声を聞かせて桂は益々距離を詰める。抱き込むように回された腕のぬくもりに、抵抗を投げ出して銀時はされるままになった。
 じんわりと混じり合う体温に、泣きたいような気分になって頬の内側を噛む。感情の揺れを押さえ込むように撓んだ背を、空いた手が撫で擦る。
 多くの命を奪った手だ。それは自分だけではなく桂も同じ筈なのに、彼は何故そんなにも温かい情を持っているのかと、銀時はそれを施される度に不思議になる。
 他人から見れば、ふたりは本当のところそんなには変わらない。血の匂いももう殆ど香らず、江戸に住む人々に馴染んでしまっている。なのに銀時には桂の存在が、どうしてもうつくしいものであるように見えた。
 ただの友を思うのではない気持ちを桂に向けてはいても、銀時は彼を女のように思ったことはない。けれどもこういう時の桂は、己が持たずに生まれてきた母のようで、それがどうにも耐え難い。
 そうして無闇に情を施されては、自分の気持ちがただそれに縋る為の言い訳であるように思えるからだ。

「銀時」

 静かな声が、夜を遮らないように名前を呼ぶ。

「眠れ。明日は仕事はないのか」

 きっと桂も銀時が何かを抱えていることなど気付いているだろうに、そのことには触れない。そうしてやさしいだけの声を聞かせる。

「お陰様で大入り大繁盛だ」
「そうか」

 背中から伝わる熱は声をぼやけさせる。次第にまどろみが目蓋に伝わり、銀時は夜の果てを見ない内に瞳を閉じた。
 いずれ来る花の咲く日を、遠く夢見て。