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杖の下に回る犬は打てぬ

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猫は好きだが、猫には嫌われる。そういった運命なんだと右手の人差し指を噛まれながら桂は思った。
 可愛い猫が細い塀の上を歩いているのを見かけ、ついつい手を伸ばしただけなのに。ただ、ちょっとそのふかふかの毛に指を埋め、余裕があれば撫で擦り、もふもふして、ちょっといけそうなら頬を埋めたいと思っただけなのに。
 猫の口がようやく指から離れる。鋭い牙でざっくりと、傷と呼ぶよりも穴と呼ぶ方がふさわしいものが出来上がっていた。見る見るうちに赤い血液が盛り上り、指を伝って流れる。
「痛い」
 血を見ると途端に痛みが襲ってくる。じくじく痛む指を押さえ、それでも愛らしい猫を怒る気にはなれなかった。にゃんことは気まぐれなのだ。自分の触り方が気に食わなかったに違いない。
「すまんな」
 噛まれ傷を負ったのは己だと言うのに、桂は塀の上の野良猫に頭を下げる。猫は声を上げることも無く、ふいと顔を背けると、塀の向こうへひらりと飛び降りた。
 ああ、と名残惜しそうに猫のいなくなった塀の上を見つめて桂は溜息をついた。これほど思っているのに、どうして伝わらないのかと心の内で嘆いていると、後頭部に鈍い痛みが走る。
「何やってんだよ」
「猫だ」
 はあ?と目の前で銀時の顔が歪む。変な顔をするなと言えば、ばっかじゃねえのと吐き捨てられた。
「で、お前は猫に噛まれてぼーっとしてたのかよ」
「ん?何故わかった?」
「ゆび」
 言いながら指差され、それを見る。ぷくりと赤い血が溜まっては流れ落ちていた。
「ああ、なるほど」
「なるほどじゃねえだろ。ちょっと貸せ」
 右手がぐっと引かれるのにつられて桂は体ごと銀時にぶつかった。銀時は再度、バカだろ、と桂を罵りながら桂の右手の人差し指を口に含む。
「銀時!」
「んだよ。止血してやってんだろ」
「駄目だ!」
 慌てて銀時を引き剥がす。んだよ、と膨れっ面を浮かべ銀時はくるりと背を向けた。
「銀時、ちょっと待て」
「知るか」
 そのまま駆け出す銀時の背に手を伸ばす。けれどそれは届かずに、銀時はその場から走り去ってしまった。
「野良猫はどんな菌を持っているのかわからんから、ちゃんと消毒せねばと言うのに、こっちこそ知らんぞ」
 遠くなった背中に呟けど、銀時は振り返らなかった。

作品名:杖の下に回る犬は打てぬ 作家名:なつ