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「本当に全く表情がないね君は！まあ顔の造作が極めて美しいからこそそれもミステリアスな魅力となっているわけだけどね！」
「何考えてんのかわかんないからちょっと怖いよね」
「感情が欠落してんじゃねえの？」
「でもそんなとこがいい！」
　さしあたって現段階、俺の別名である羽島幽平の評価は、そんな感じである。
　目標までは、まだまだ遠い。

「なんでお前、そんなに頑張ってんだ？」
　別に金儲けとか名声に興味あるわけでもねえだろ、と、この世で一番耳慣れた声が心底不思議そうに訊いてきた。
「仕事だから……それに、この仕事が好きだから」
　栄養ドリンクを飲み干してそう答えた俺に対して、兄さんは薄い顔の皮で心配を押し殺すのに失敗しながら言った。
「まあ、お前が頑張るって言うなら止めねえけどよ……あんまり顔色よくねえぞ。無理すんなよ」
　そんな事を言うのは兄さんくらいだよ。
　自分の顔に表情がないことは自分が一番よく知っている。だって、そうなるように昔から努めてきたんだ。
　ずっと無表情でいるっていうのはずっと空気イスをやっているのに近い。おかげで表情筋が鍛えられた。それもこれもどれも兄さんのおかげだった。

　きょうだいにおいて、下の子は上の子を見て育つものらしい。
　上の子に足りないものを下の子は持っているらしい。
　自分たちの場合は、それが無感情と無表情だったわけで。
　俺はいろいろ足りねえ人間だけどお前はすごいな、と兄さんが言ってくれるのはくすぐったくもあるけれども、なんだか少し、切ない。すごくなんてないんだよそんなのは。
　女の子は守ってやらなきゃならないってこと。
　怒れば結局自分に跳ね返ってくるってこと。
　このふたつを心に秘めているおかげで、今の俺の人生があるんだ。つまり兄さんのおかげなのに。