貴方に贈る子守唄
食事が泊りに。少しずつ、彼と過ごす時間が増える。
日常に組み込む事。竜ヶ峰は完全なる第3者だ。その意味を、俺は忘れた訳では無い。
何時かは居なくなってしまうだろうに、こうして内側に取り込み掛けて、切られたら傷を負う事も分かっているのに。
それもこれも、竜ヶ峰が、ただ俺と会話するだけに留まらない事が、1つの原因だった。
竜ヶ峰は、俺と会う度に、覚えたのだと言う手話を披露して、出来るだけ俺の負担にならないように気を遣いながら、俺と向き合ってくれた。
俺のハンデは決してハンデでは無いのだと、示す様に。
普段の遣り取りは携帯のメールだから、顔を見て直接会話出来るのは、嬉しい。
彼の朗らかな笑顔に、態度に。癒されて、救われた。
昔、金魚蜂に居るみたいだと、弟に漏らした事がある。
聴力を失って、未来も、今あるものさえ崩れ去って、直ぐ目の前が見えなくて、全てを閉ざした。
金魚は狭い箱庭の中、世界を知らずにただ泳いで、一生を終える。
餌をくれる人間がいなければ、更に早い。俺にとっての人間は、両親であり、弟だった。
俺の一生は、金魚蜂の如く、閉ざされて終わるのだと、信じて疑わなかったけれど。
なぁ、俺を掬ってくれたのは、救ってくれたのは、きっとお前なんだよ。
その小さな手が、俺に触れて、破顔する、瞬間が。
俺にとってどれだけ大切で失いたく無くて、許されないかを、きっとお前は知らないんだ。
気付かなくて良い。知らなくて良い。
だから、まだ、消えないで―――――・・・