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【土沖】ねずみ沖田がうし土方のおめかしに精を出す話

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「やりたくねーんだけど、干支なんざ」
「でも土方さんが次に代わってくれなきゃ、俺はいつまでもお役目のまんまでさァ」
「……」
「カチューシャを当てたいから、ちょいと屈んでくだせェ」
「やだよ」

「なんで!」と文句を言われてまるで子供のままごとに付き合わされる親戚のような気分だった。(ただし、土方に親戚の幼い子供などは居もしない。かつて見たことのある身近な子供といえば沖田総悟ただひとりなので、要するに、これは昔の何かを思い出しているだけのこと)

「ひーじかたさーん、」
「あー分かった分かった!干支をやってやらなきゃいけねーのは分かったから、それぐらい自分で出来る!」
「あ、やっぱりこれにしよう。あんたのお耳には、これが一番似合いまさァ」
「お前はほんっとに聞いてねーな……」

いいからほらほら、このお耳ですぜ。沖田がくれた耳は頭につけたら真横に垂れ下がるのであろう、確かに上等な耳だった。両方とも色は白く、片方の先っぽだけ黒のぶちがある。しげしげ眺めていたら今度、赤い紐付き鈴を勝手に土方の首に結んで、沖田は少し笑った。

「うん、かわいい」
「……あーそう……」

頼むから勘弁してくれ、と思う。
赤よりもその袋の中に入っている青の方がせめてまだいい、と、口にしかけて土方はやめた。
「かつて」真選組が生まれ、隊服について考えているとき、近藤とふたりで色々と話し合いはしたが沖田をそれに一切混ぜてやらなかったことを思い出したからだ。


大人が勝手に作ったものを、与えられてしまって従うしかない子供の側でいてほしかった。いつか責任を問われたときに、何かを負うのは土方だけでよかったのだ。しかし土方は、沖田がそのことを、今でもほんの少し怒っていると知っている。

「総悟」

ちりんちりんと人差し指で土方の首に下がった鈴を鳴らす、そのつむじに、いつのまにか吸っていた煙草の煙をふうっと吹きかけたらきょとんとして顔を上げた。

「来年も、頼む」

せめて真っ当な挨拶をと思ったら、思いのほか大げさに顔をゆがめて「あんたが素直だと気持ちが悪い」と言った。新年早々ご挨拶なことだ。それならそれで結構なのだが、お前にお年玉なんかはもう二度とやらないと思って、土方は息を吐く。

けったいな、けったいな夢の出来事であった。