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潮騒

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an Angel

突発ss02 




風になびくその姿に
まるで風に消えてしまいそうな
その姿に
怖くなって思わず
その手を掴んで抱き寄せた


潮騒

風がなびく
土方は吹き込む風にイライラして車の窓を閉じた。
すれば、腹の立つほどにむしむしした空気が車内に充満し、あぁそうだったなともう一度窓を開ける。
「すみません、副長。クーラー壊れてて」
運転席に座る地味な青年が申し訳なさそうに土方に謝る。
土方はその言葉には答えずもう一度窓の外を見やった。
夜の帳が下り、普段の深い青から漆黒へと変化した海はたゆたゆと、飽きもせず満ち引きを繰り返している。
海沿いを走る車は窓を開けていれば容赦なく潮風が吹き込み、土方の少し延びた前髪を揺らしていく。
この分ではすぐに髪など潮でべたべたになるだろう。
全く、飛んだ迷惑だ。
少し遠くの会合に出るために山崎と車で出たはいいが、会合を終え屯所に帰ろうと車を出すと、ものの数分のうちにぷしゅんとどこか間の抜けた悲しげな音を立て、パトカーのクーラーが止まってしまったのである。
修理したり車を乗り換えるよりもさっさと帰ったほうが早いと判断し仕方がなくそのまま出発したのだが、ものの数分のうちに当然のことながら車の中の気温はバカみたいに上昇し、窓をあけないとやっていられなくなったのである。
あまりの暑さに山崎を何度か八つ当たりで殴ったはいいがさらに体温は上がり、まぁ自業自得なのだがさらに機嫌が悪くなるという悪循環が続く。
全く。と土方は溜め息をついた。
本当なら今日は土方は非番のはずで。
1ヶ月ぶりの非番がとれたことをあの男に伝えれば、あの飄々としてつかみ所のない天然パーマは飛び上がるように喜び、いい店を見つけたがら飲みに行こうと満面の笑みで誘ってきたのだ。
別に他に予定などなく、そもそもこの男と過ごすつもりで非番になったことを伝えたのだから二つ返事でOKした。・・・の、だが。

〔トシィィィっお願いだ頼むこの通りだぁぁぁっ〕
〔・・・はぁ〕

土方が大将と慕うそのゴリラに涙目で土下座などされては断るわけなどできず。
土方はあきらめたように新しいタバコを取り出す。
「しゃぁねぇ、な」
近藤に言った了承の言葉をぼそりと繰り返してはまた機嫌悪そうにタバコに火を付けた。
毎度のことだ。予測できていたではないか。
近藤が会合を放棄した理由はいつもの通り、あのキャバ嬢がらみのことで。
なにやらすまいるでメイドデーとかいう馬鹿げたイベントをするらしい。
あの女がメイドなどできるはずがない。
逆にご主人さまと笑顔を振りまかなければならないはずの男たちを顎で使う程度がせいぜいだろう。
土方はとりあえず丁度今ごろ恐怖の給仕を受けているだろう近藤の身を案じた。
生きて帰ってくればいいが。通帳は空かもしれないな。
そんな他愛もないことを考えてみても、ふと脳裏に浮かぶのは今日になって約束をドタキャンしてしまったあの男のことで。
行けなくなったことを伝えてもあの男はいつもと変わらない調子でお宅も大変だねえと笑った。電話から聞こえるその言葉にすまないと謝るとお仕事がんばってねーと間延びした声で聞こえ、そこで通話は終了した。
・・・なにを気にすることがある。
知らず知らずに気が滅入っていた自分に苦笑する。
いつものことではないか。
そもそもじぶんとあの男との関係はやれ約束だ、やれ逢瀬だなどときりきりするようなものではない。
お互い気が向けば、またはそこらへんでばったり出会えば気まぐれに肌を重ねる程度の仲というだけで。いわゆるセフレとやらだ。他意などないし、必要ない。あの銀髪に自分が気など使う理由はどこにもないのだ。
なのに。
どうしてこうも気が滅入る。
なんかもう気が滅入ることに気が滅入っていやになってきた。
あの男はいたら居たで自分をかき乱すくせに居ないときに至ればそれはより悪化する。全く持って腹立たしい。
もうなんか一体自分が何に腹がたっているのかわからなくなってきた。
これではまるで恋をした生娘ではないか。
そこまで考え、土方はハッと顔を上げた。
自分は一体、今

何を

「・・・ちょう?・・・副長!」
「・・・っ!?」
山崎の声に我に返ると丁度ほとんど吸っていない煙草が根元まで燃え尽きるところで。
「うわっ・・・と」
慌てて短くなったそれを車の灰皿に押しつけると、少し火傷してしまった指をひやすようにぷらぷらとふりながら「な、なんだ?」と山崎の方を見ずに言った。
「なんだ、じゃないですよ・・・ぼーっとして。俺の話聞いてました?」
まるで子供がするようにぷぅと口を膨らませる山崎に気持ちが悪いとグーでツッコミを入れながら、同じようにおどけながらよくその表情をするその男を思い出して。
・・・はぁ、だから自分は一体何を。
もう嫌になって頭をわしゃわしゃとかき混ぜる。
消えない。
今日はこれから屯所に戻って、また仕事なのだ。
なのに
あの男が消えない
こうも自分のことを乱しているのに
消えないのだ
・・・ばかばかしい。
天下の鬼の副長がなんてザマだ。
「もうこの話は終わりだ」
「ええええ俺何もいってないですよ!?」
本当に何も言っていない今日一番の被害者のことなど気にせず、もう終わりだと一人勝手に気持ちを切り替え、未だ窓の向こうに広がる暗い海を眺めた。
ここは海岸を走ることができる珍しい道であり、さらには砂浜が広く、そこまで汚れていないという理由からか夏の休日は多くの家族連れやヒマな大学生のサークルなどで賑わう。
しかし海の時期でもなく休日でもなくさらには夜という今は幾ら有名な海水浴場とはいえ人は全く居ない。
そんなどこか寂寥感の漂う海岸を見るともなしに見ていれば






銀色の男が






まるでそこにいることが正しいかの如く
ただ
そこに立っていた。






時間が止まったような気がした






作品名:潮騒 作家名:初桜