二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

潮騒

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 



その銀色の髪が風になびき
夜の空が怪しく歪む


その、男は
ただ何をするでもなく
何を見るでもなく
ただ
ただ
そこに立っていた。

何かを悟ったような表情で
ただ穏やかに
星空を見上げる

その

その、満足そうな
表情に













どこか恐怖を覚えた。












突然のことに土方は呆然とし、その後すぐに山崎を怒鳴りつける。
「お・・・おいっ・・・車、止めろ!早く!!!」
「え?!なんですか突然?」
「いいから早く止めろ!!」
山崎が突如急ブレーキを踏み、このおんぼろパトカーは何とか止まる。
砂浜であるが故に少し滑ったが気にせず土方はドアを開け飛び出した。
「ちょ・・・ちょっと副長!」
山崎が中で地味に叫んでいる。
「・・・先に帰ってろ。報告もあとででいい」
「え?あ、ハイ・・・分かりました」
なんだかもうどうでもいいやと言った顔の山崎を一人車に残し、土方は銀時のもとへ走った。
見つけてからしばらく車で走ってしまったから少し遠い。
だけど
分かる。
誰もいない浜辺に
一人たたずむ
その
銀色を。

「・・・っ」
その姿を見た瞬間
胸がきゅーっと
何かに掴まれたかのように
苦しくなった
あぁ
なぜ
そんな表情で

何もかもを包み込むような
何もかもを許容するような
そんな表情で星空を見上げるその男は
何よりも優しい表情をしていて
何よりも強い表情をしていて
何もかもを捨ててすがりつきたくなる
そんな
雰囲気が彼を包んでいて
ただ
ただ





それが嫌で





そんなところに居てほしくなくて
そんな顔をしてほしくなくて
息を切らせて銀時のもとにたどりついたかと思えば
物音に男が振り返るよりも先に
腕を掴んで引き寄せた。











「・・・は、はぁっ・・・はぁ、はぁ・・・」
無駄に砂浜を全力疾走したせいで息はきれ、かっちりと隊服を着こんでいたせいで汗だくである。
「・・・ひじ・・・?」
突然現れた土方に面食らった表情をしていた銀色は
自らの手を掴む土方の手を見て少し笑い








土方をその手ごと抱きしめた。







「・・・お帰り、土方。」

ただ、
ただ
その言葉が。
その表情が
その声音が
その体温が

あまりに温かかったから。





だから嫌なんだ





自分が自分でいられなくなる
バカみたいに
走ってしまう
考えてしまう
この男は
自分にとって何なのかを
この男にとって
自分というものは何なのかを

そして
気づいてしまう

だから
嫌だったんだ

嫌だ

嫌だ

変わってしまうのは

嫌だ




「放、せ・・・っ」
「なに言ってんの、つかんできたのはそっちじゃねぇか」




違う
それは
ただ
お前が
そのままどこかに行ってしまいそうだったから
そのまま銀の闇に溶けて
なくなってしまいそうだったから
今までの思い出も喜びも悲しみも
俺の気持ちも
俺の何もかもを
すべてお前が持って行ってしまいそうだったから

まるでお前がいなくなってしまうかと
そうやって満足気に笑って
お前は居なくなってしまうのかと


怖くなって


だから居てもたってもいられず
こんなところまで駆けてきたんだ

だから、違う
そんなのは

「嫌なんだよ――――」
「・・・」
何も言わない
この優しい男は
土方を追い詰めることは何も言わない
だからこそ
さらに追い詰められる

あぁ
嫌だ
「訳がっ分からなくなるんだ・・・てめぇの、てめぇなんかのせいで・・・」
「・・・」
「ずっとずっと頭ん中テメェが離れねぇ。やめよう知らねぇ忘れようって思っても頭のどっかに銀色がこびりついてやがる。目障りなんだよてめぇなんざ!俺にお前は必要ねぇ!お前にだって俺は必要ないだろ!なんだってそう俺の中に入り込んでくるんだ。お前は俺にとって何なんだ。その―――その目で俺を見るな・・・!」
叫ばずにはいられなかった。
まるでヒステリーを起こした女のようだと
土方の冷めた部分がいまの自分を鼻で笑う。
ただ
ただ
その表情が
嫌で
「・・・そんなに嫌?」
何も言わずに土方の叫びを聞いていた銀時が、口を開いた。
「・・・嫌だ」
未だ銀時の腕の中に収まったままの土方は小さく、ほとんど聞こえない声で答える。
「そうか」
そう言って
その銀色は
肩にうずまる土方の顔をあげさせると

まるで恋人同士のようなキスを土方に贈った。

「ん・・・んぅ・・・んんっ・・・ふぁ・・・ん・・」
甘くて
優しい
とろけるようなキス
あぁ
これも
嫌だ

なんだってこの男は
いつも
そう

「仕方、ねぇな。」
ガキのお守にゃあ慣れてんだと
キスが終わったあとにあの笑顔で言う銀色に。
「何が」
恥ずかしくなって目を合わせられない。
あぁ
なんだこれは
本当に
これでは
とんだ茶番だ。
どうしてこの男から抜け出せないんだ
まるで雲のような男だ。

「俺は割と好きだよ」

突然、そんな声が頭上から降ってきて。
「・・・・え」
呆然とする土方を
銀時はそっと離す

すればまた
ほら
その男が消えてしまいそうな幻覚に襲われて。















土方は慌てて腕をつかんだ。









その慌てた行動に
にっといたずらっ子のような顔で笑うその銀色を見て
あぁ敵わないと
この男には
一生こうやって振り回されていくんだろうなと
土方はとうとう
観念した。
どこか悔しくて
どこか清々しい
そんな
微妙な気持ちを抱えて
だけど
胸の中に凝り固まっていたごろごろした何かは
すぅっと消えていくのを感じて


「・・・行くな。どこにも行くな。ふわっと消えるのなんか許さねぇ。てめぇの居場所はここだ。おれのそばだ。そんな顔をするな。突き放すな手を離すなこれからずっと一生何があっても・・・離れるなっ・・・・!」


ほとんど叫ぶように言う
そんな土方の身勝手な告白を
銀色はただただ
笑って聞いていた。
その表情が嫌で
また土方は銀時を睨みつける。
すれば、感極まった拍子に土方の眼尻にたまった涙がこぼれおちて。
銀時はそっとその雫を掬い、むっとしている土方の髪をかき上げると、額にキスを送る。
「注文の多いやつ」
そんな、言葉しか聞こえなかったけど
ただただ土方を力いっぱい抱きしめたその表情は
すごく
嬉しそうに見えたものだから。

その大嫌いな表情を
少しだけ
ほんの、少しだけ

もう一度見たいと
思ったんだ。










作品名:潮騒 作家名:初桜