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薔薇の棘

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プロローグ





辺見はいかにも不機嫌そうに顔を顰めた。

「またデートかよ」

「断るのも悪いだろ」

源田は鞄を軽々と持ち上げ、涼やかな顔で戸口から出ていく。
練習時間外を源田がどう使おうと、辺見にとやかく言う権利はないのだが
源田の振る舞いを見ていると心配で仕方がない。

「いつか刺されそうな気がする」


「あははは、言えてます」

成神が楽しそうに笑った。

「なんであんな性格の悪い奴がモテるのかわからん」

「外面いいですからね、要領もいいんで、トラブルがあっても対処できますよ」

「確かにそうだけどな」

ため息交じりに言葉を吐いた。
辺見は成神と違ってあまり楽観的になれない。それは彼の性質だったが
それ以上に友人として放ってはおけなかった。
聖人君子のつもりはないが、倫理から外れた行為は是正すべきだと思う。

源田幸次郎の外面は最高にいい。
整った顔立ちはとても凛々しくて、優しい笑顔は包容力に富んでいる。
さらに立ち居振る舞いも完ぺきで、機転がきく彼は話術も巧みときている。


「惚れるなと言う方が無理だけどさ」


源田に捨てられた女は多い。さらに悪いことに源田は捨てたという感覚はないのだ。
冷たい態度をとるわけではなく、優しげな笑顔で別れを口にする。
辺見はそれを幾度となく見てきたし、並行して何十人と付き合っているのも知っている。

「きっと源田先輩は本気で惚れたことないんでしょうね」


「かもな」


「大本命ができたらどうなっちゃうか、気になりません?」
悪戯っ子のように楽しげに笑って成神が言った。
その状況を想像して

「…気になる」

辺見はつぶやいた。




作品名:薔薇の棘 作家名:rita