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祭囃子は聞こえない

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「誰かにつけられてるみたいなんです」

幼い顔に僅かな不安を貼り付け、竜ヶ峰帝人は小さく呟いた。




綺麗に片付けられた部屋にはシンプルな家具が並び、落ち着いた雰囲気を放っていた。
そしてその広い部屋に、少年はいた。
質のいいソファーに座り、渡されたココアをおずおずと啜る様はさながら小動物のようであり、見るものの庇護欲を煽った。
そんな少年の目の前には、すらりとした体躯の金髪の青年が対になる白いソファーにどかりと腰を下ろしていた。
「で、その相談ってのは何なんだ?」
ぶっきらぼうに言い放つ青年の声色には心配の色が隠されており、その優しさを敏感に感じ取った少年は苦笑交じりに微笑むと、マグカップから口を離した。
「ええと…その、大変言いにくいんですが…」
気まずそうに視線を泳がせる少年――竜ヶ峰帝人。
その様子を、ただ黙って金髪の青年――平和島静雄は見つめていた。
普段の彼ならば、はっきりと物を言わない態度に短気を起こしそうなものなのだが、今日の喧嘩人形はただ黙って静かに少年の言葉を待ち続けていた。
しばらくして意を決したのか、口を開く帝人。
その顔は複雑そうに歪められていた。
「誰かにつけられてるみたいで…」
「それってストーカーってこと?」
「…!幽さん…」
様々な感情を有して呟かれた言葉に、即座に返事を返したのは、部屋の奥から静かに現れた黒髪の青年だった。
艶やかな黒髪を揺らし、静雄の座るソファーに腰を下ろすと、涼しげな目元を帝人に向けた。
無表情だが端整な顔は帝人に話の続きを促しており、帝人は改めて居住まいを正すと、二人に本日の本題である『相談』の内容を話し始めた。
「ええ、はい。幽さんの言う通り…だと思います。最初は勘違いかと思ったんですが…最近ではあからさまに行動を起こしてきて…」
「気づいたのはいつから?」
「…一ヶ月くらい前…からですかね」
幽が質問した問いの答えに、二人の体が微かに揺れた。
二人を包む空気が段々と変化していくが、帝人は気づかない。
「本当なら自分でなんとかするつもりだったんですが…すみません。本当に…最近どうにも行動が派手になってきてて…、その、不安で…男なのに情けない限りなんですが…」
はは、と自嘲気味に笑いを零す帝人に、二人は優しくも強く否定した。
「情けなくねぇだろ、別に。というか、むしろもっと早く相談しろ」
「うん、そうだよ。何かあってからじゃ遅いんだから」
「え、ええ…はい。すみません、ありがとうございます…」
性格は真逆だが息の合った兄弟の連係プレーに気圧される帝人。
だが二人の優しさが嬉しかったのか、ほっとした表情で肩の力を抜いた。
「で、そのストーカーのことなんだけどさ。してきたこととか色々、教えてもらってもいいかな。嫌だとは思うんだけど…」
「あ、はい。いえ、大丈夫ですよ」
「つうかよ、そのストーカー…ノミ蟲じゃねぇだろうな」
びきり、音がしそうなほど綺麗に浮かび上がった青筋を一本作りながら、静雄が低く呟く。
まるで地を這うかのように低い、ドスのきいた声に帝人の顔が青くなった。
だが隣に座っている幽は『いつもの事』だと慣れているのか、まるで意に介した様子はなく、相変わらず無表情のまま座っていた。
「い、いやっそれはないですよ!臨也さんじゃないはずです!」
静雄が『ノミ蟲』と形容する人物は一人しかおらず、その証拠に帝人がその名前を口にした瞬間、静雄のこめかみに青筋がもう一本刻まれた。
あ、二本目。
そんな幽の能天気な声が聞こえ、帝人は乾いた笑いを上げた。
だが帝人が続けて言った言葉に今度は二人が固まり、顔色を変える事となった。
「顔をはっきり見た訳じゃないんですが、声も違うし…それにこの前、裏路地の引き込まれた時に見た感じでは臨也さんじゃないはずですよ。体つきが全然違いましたし」
顔はマスクか何かで覆っていて、よく分かりませんでした。
補足で帝人が喋るが、二人の意識は既に別の言葉に注がれていた。
――『裏路地に引き込まれた』…?
二人を包む空気の温度が急速に下がっていく。
他に二人を見る者がいたならば、その形相に身を縮ませ、恐怖に声を引きつらせていただろう。
それほどまでに二人の顔は恐ろしかった。
静雄は青筋を更に増やすと、目を据わらせ、金髪の間から覗く相貌を肉食獣のように細めた。
その眼光はあまりにも鋭く、凶悪だった。
横にいる幽は表情こそ変わっていないが、その端正な顔立ちに凍てつくような冷たさを浮かべ、壮絶な迫力を生んでいた。
そんな二人の様子に気づきもせず、ココアを啜る少年はある意味大物なのかもしれない。
「……で、裏路地に引き込まれて…具体的には何されたんだ?」
怒りを抑え、極力冷静に努めた声で帝人に問う静雄。
だが組まれた両手の甲には血管が浮いており、僅かに震えていた。
「ええと…引き込まれた後は…口を塞がれて壁に押さえつけられて…何か体を触られましたね。その後はやたら腰を押し付けてきて…何とか逃げましたが、何が楽しいのやら…」
呆れたように溜息を吐く帝人。
しかし帝人が真に気にするべきはそちらではなく、目の間に座った青年二人だろう。
もはや二人の周囲の空気はブリザードと化していた。
姿が見えぬストーカーに向ける目は、眼光で射殺さんとするほどに鋭かった。
「なぁ、帝人」
「はい?」
ふいに静雄が真面目な顔で話しかけてきた。
帝人は伏せていた顔を上げると、静雄に顔を向けた。が、
「お前の好きな方法を言ってくれ。その通りに始末するからよ」
「……………………」
真顔で吐き出された言葉は、気持ちがいいほどに真っ直ぐな殺人予告だった。
「…いや、あの、すみません。なるべく生かす方向でお願いします」
「…………………そうか」
「…はい」
何故か残念そうに目を伏せる静雄。隣の幽も心なしか残念そうだった。





その後二人は帝人にストーカーについての詳しい話を聞くと、静かに立ち上がった。
「とりあえず今日はうちに泊まりなよ。兄さんもそれでいいよね」
「ああ」
帝人が飲み終わったマグカップを流しに持って行きながら、もとよりそのつもりだったのか静雄がさらりと答えた。
問うた幽も一応は許可をとったがそれだけ、といった感じで焦っているのは帝人だけだった。
「ええ!?い、いや!駄目ですよそんなの!これ以上ご迷惑をかける訳には…」
「帝人」
「帝人君」
「…う」
ほぼ同時に名前を呼ばれ、帝人は押し黙るしかなかった。
「明日は日曜だし問題ねぇだろ?それにすぐに片付けるからよ」
「うん、だから安心して」
―月曜の朝までには終わらせるから。
「…え?」
幽の口から落ちた言葉はあまりに小さく、囁くように呟かれた為、帝人は聞き取ることが出来なかった。
しかしすぐさまその言葉を求めるように問い返すが、それを遮るように幽の手が帝人の頭に落とされた。
そしてそのまま優しく頭を撫でられる。
「ううん、何でもない。とりあえず今日はもう遅いから寝な。部屋はここ使っていいから」
「え、あの、ちょっ」
「ほらよ、これが着替えな」
「え、ああ。どうも」
「じゃあお休み」
「おやすみ」
「え…ええと…」
あれよあれよ言う間に進められていく話についていけず、おろおろと慌てる帝人。
作品名:祭囃子は聞こえない 作家名:鷲垣