二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

遅効性の毒でしかない

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 けれど、帝人は自分が愚かだとは気付いていない気がする。臨也は臨也自身を愚かだと認識している。この差が、二人の間に圧倒的な違いを生んでいる。

 愚かだと分かっていない少年は妄信的に歪さを愛する。信じる。それが真実であると信じているが故に、真実を造り上げようとする。
 愚かだと分かっている大人は客観的に歪さを愛する。創り上げる。それが真実ではないと分かっているが故に、上手く真実に偽装する術を用いることができる。

 おかしいのはどちらもだ。
 だが、悪意があるのは明らかに後者であり、前者は現時点において成長を促される立場にある。

 変えようとも思わなかったが、変わるとも思わなかったそれだけだ。臨也はあくまで自分が悪いとは思っていない。悪いことをしている時も世論でいう悪いことであって、臨也にとっての悪いことではないのだ。

 金持ちの取り出した財布に数百万の現金が入っていたとして、その内の一万円札を奪った少年が親からの虐待を受け、食べる物を得るために必死な「必要悪」としてその犯罪を行使したのならば、臨也にとっての悪はどちらでもない。
 奪った側は法律的に悪いだろうが、無遠慮にそうした隙を作った、犯罪者を誘った被害者側もそれなりに悪い。たかが一万円をくれてやれないのならば、取り戻す一万円札は自分自身の能力によって(例えば臨也ならばナイフを取り出してでも一瞬で奪い返すだろうし、そもそも渡す気でもなければ奪われもしないのだろうが)奪い返すべきなのである。

 臨也が「反吐が出そうなくらい、世の中は腐っていて面白い!」と思いめぐらせている間、帝人は臨也を見つめていた。臨也が何か、良からぬ事を考えているようだと気付いている風だったが、それを口には出さず、ただぱちぱちと大きな瞳を閉じたり開いたりしているのだった。

「……結局、毒は入ってないんですよね」

 帝人は唐突に、ぽつりと言った。言いながら視線を落とした紅茶は、やはりゆらゆらと光を反射しながら様々な色に変わって見える。上面に映り込んだ帝人もゆらめきに合わせてぐにゃぐにゃと歪んでいた。

「今頃心配になっちゃった?」

 臨也は楽しそうに言う。
 臨也の表情も声も帝人には全く不快ではないのに、臨也のこうした発言の節々に彼の隠し持った歪んだ性格が出ているなぁ、と帝人はぼんやりと思う。

「いえ、そうじゃなくて。確認っていうか……」
「なにを?」
「貴方の場合、この紅茶に毒をいれなくたって、僕なんかをこの世界から消すのは簡単じゃないですか」
「だから毒は入ってない?」
「そう、毒なんてもの、必要ないですから」

「それに」帝人は続ける。

「臨也さんの方がよっぽど毒みたいだって感じる時があります」

 少し困ったように笑いながら、それは申し訳ないことを口にしている時の表情と全く同じものでありながら、帝人は今、大層なことを言ったのだ。臨也は一瞬面を喰らった。
 臨也の表情に驚いて、帝人もまた、臨也と同じような顔をした。

「す、すみません……」

 臨也がなんらかのリアクションを取る前に帝人の謝罪が飛び出した。

 臨也の視界に、実際には存在しない小石が見える。路線変更の為の小石は既に帝人のレールの上にあるような気がしてならないのだ。まだ、レールを外せる程大きな小石でなかったとしても、確かに、それは帝人のレールの上のどこかにあるような気がした。

 臨也は視線を斜め上に向けて、指先を口元に当てる。
 見るからに考え込むポーズを取った臨也に、帝人はますます慌ててどうやって臨也の機嫌を取ろうかと考えた。
 臨也が感慨深く(俺が帝人君の毒って表現は面白いなぁ)と考えていることなど帝人には分からないのだ。

「俺はやっぱり、君にとってのダラーズでいてあげるとしよう」

 臨也は笑った。
 帝人は紅茶の鮮やかな色を凝視しながら、それが臨也にとって機嫌の悪さを表すものなのかどうか、暫く思い悩むのだった。
作品名:遅効性の毒でしかない 作家名:tnk