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Holiday

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「まったく……可愛げってものが無ぇんだよな、あいつは」
『そうむくれるな。プリンを横取りされたぐらいで、冷蔵庫をぶん投げた静雄もどうかと思うぞ?』

抜けるような青空が広がる8月の日曜日。
池袋の公園で偶然出会ったセルティと静雄は、容赦なく照りつける日差しから逃れて木陰のベンチに腰掛け、取り留めもない会話を交わしていた。

セルティの隣で少し不機嫌そうに腕時計を覗き込む静雄は、いつものバーテン服ではなくTシャツにジーンズという至ってラフな出で立ちだった。暑さ寒さに悩まされない体質のセルティも、この日は珍しく黒いワンピースに少し踵の高いミュールというファッションに自分の影を作り替えている。(首の上に乗せられたヘルメットが些か不釣り合いだったが。)

「……だってよぉ。俺はちゃんと、風呂上がりに食べるつもりだから絶対に食うなって言っといたんだよ。なのにあの臨也の野郎、いい大人のくせに『こういうのって、食べるなって言われると食べたくなるんだよねぇ』とか涼しい顔して抜かしやがって……」
『……それは少し、イラッとするかもしれない』
「だろ?」

以前に静雄と臨也が愛し合っているところを想像して吐き気を催したことがあるセルティだが、いざ静雄本人に臨也との付き合いを告白されてからは、彼らの関係にすっかり馴染んでしまっていた。今日のように痴話喧嘩の話を聞いてやったり相談に乗ったりすることもしばしばだ。

会話が途切れると、ミンミンというセミの大合唱がすぐさま二人を包み込む。

夏休みということもあり、公園にも割と人通りが多い。服装が普段と違うというだけで、池袋最強の男と首無しライダーという組み合わせの自分たちに、常のような人々の好奇の視線が集まらないことをセルティは少々面白く感じていた。

大学生風のカップルが通り過ぎるのを眺めていたセルティは、ふとあることを思いつき、独り言を呟くように半ば無意識的に指を動かす。

『私たちは似ているな』
「―――え? 俺とセルティが?」

隣に座っているため、ワンピースの膝の上に乗せたままのPDAの画面が見えたのだろう。静雄が尋ね返してきた。

『あ、というか……私と新羅、それに静雄と臨也という二組が、かな』

闇医者と情報屋の姿を思い浮かべながらセルティは文字を打ち込み続ける。

『私たち二組のカップルは、どちらも「普通」の形とは言えないだろう? 私は都市伝説の首無しライダーだし……』
「ああ、俺は池袋最強の化け物だし、か……」
『あ、いや、違うんだ! 私は決して、お前たちの悪口を言っているわけじゃないんだ! それに私は、普通の人間に憧れている訳でも、自分のことを貶めている訳でもないんだ。そういうつもりじゃない、どうか気を悪くしないでくれ』

自分の発言は不適当なものだったかと途中から慌て出したセルティだったが、穏やかな笑みと共に「分かってるよ」と答えた静雄は気分を害していないようでほっとする。

「片手で冷蔵庫やら自販機やらを投げつける俺を普通の人間と言い切れねぇのは事実だからな。その上、俺らは男同士だし」
『でも、静雄たちがお互いを愛する気持ちは、「普通」の恋人たちと何ら変わりは無いだろう?』
「う、まあ……そりゃあな」

静雄は落ち着かなそうに脚を組み替える。直接的な言葉に照れたと思われるその様子に内心で微笑みつつ、セルティは再び指先から自分の想いを紡ぎだす。

『私たちも同じなんだ。人間ではない私は、恋愛対象にするにはどうしたって魅力に欠けていると思うが……そんな私を、新羅は心から好きだと言ってくれる。もちろん私も新羅を心から愛しているし、その感情はとても人間的なものだと思う……それはもう、無敵のはずの私が死を恐れてしまう程に。ある日突然、新羅の前から自分が消えてしまったらと思うと……』
「ああ……あれか、『死ぬほど愛してる』ってやつか」

当然のことのように静雄はそう口にした。死の恐怖や繰り返し見た悪夢のことを思い起こして気分が沈みかけていたセルティは、思わぬ前向きな解釈をされてきょとんとしてしまう。
だけどその通りだ、と思った。

―――そうか、私は新羅のことを、死ぬほど愛していたのか。

胸の内に不思議な温かさが広がって行くのを感じながら、セルティはそっと、『ご名答』とPDAに打ち込む。時折自然と滲み出る、静雄の優しく真っ直ぐな性格が、セルティは好きだった。

「あ、でもさぁ、魅力に欠けてるなんて言ってたけど、お前はすげぇ良い女だと俺は思うよ。そういう格好だって似合ってるし。まぁ俺なんざに褒められても別に嬉しくも何とも無ぇと思うけど……」

そう言われ、セルティは自分の着る漆黒のワンピースを見下ろす。
―――もしも首があったなら、今の自分は最高の笑顔になっていることだろうと思いながら。

『そんなことないぞ、すごく嬉しい。ありがとう、静雄』

顔面の間近に突き出されたPDAの内容を読み取った静雄は再び照れた表情になり、それを誤魔化すように頭をガリガリと掻いた。

「まぁ……俺たちの場合、人間的な愛がどうこう以前に、臨也のあの悪魔的にひねくれた性格が問題なんだよなぁ。あれはほんと、人間とは思えねぇほどの性悪だ」
『……安心しろ。うちの新羅も、人間とは思えないほどの変態だ』

一瞬の間を置いた後、二人は同時に吹き出した。

もっとも、セルティの方は肩を揺らすだけだったのだが―――それでも、気心の知れた相手と冗談を言って笑い合えることに、彼女は幸福とも呼べる心地良さを感じていた。
騒々しいセミの鳴き声さえ二人の間には入り込むことがなく、木陰のベンチはいっそう和やかな雰囲気になっていた……のだが。

突然、ズサッという不穏な音と共に、何処からか飛んできたナイフが静雄の足元に勢い良く突き刺さった。
作品名:Holiday 作家名:あずき