松の隣
ああ、そうだ山崎でもそうだった。
義によって、という助太刀の名分に己の主の義も、自分自身の義も込め、さらには戦況までも見据えて忽然と現れた武士に声をかけたかったのだ。
ただそれだけだったのだ。
そう満足して部屋の敷居を跨ぐ瞬間に
「待った!」
と慌てた声がかかる。
一体なんだというのだろう、と怪訝に振り返れば。
いつの間に姿勢を正したものだか、低頭して両の拳を畳に付けた島左近が在った。
「殿、と呼ばせていただきましょう。」
言われた言葉の意味が腑に落ちず。
後ろで童女が息を呑む音を立てて、漸くその真意を悟り眼を見張った。
初めから断られると決めてかかっていらっしゃるとは、随分変わったつれない方ですこと、松菜さまは。
妓女が呆れたように笑う声がぼんやりとした頭に響いた。
※松見、松菜は藤の別称。藤の家紋の三成を指してます。