学パロ短編集
<テスト返却>
学生の本分は勉強である。
不文律のように掲げられた言葉ではあるが、それが学生自身にとって楽しいものかといえばそうではない。
例にも漏れず、竜ヶ峰帝人はテストの出来に一喜一憂していた。
「なんで古典なんてあるのかな・・・昔の言葉遣いなんて知って何か役に立つの」
「知識を吸収するのは、いいことですよ」
平均点ギリギリの返却されたテストを手にぼやく帝人に向かって、杏里が穏やかに告げる。
間違ってはいない、が、正論に返す言葉もなく帝人は重苦しいため息を吐いた。
隣の席に座っている杏里の机には、97と赤文字で書かれたテストが置かれていた。
(間違えた1問が気になるよ・・)
さすがは成績オール5である。
帝人から見れば目が飛び出そうな点数だった。
「園原さんは頭良いよね。すごいなぁ」
やたらと感情のこもった声に、杏里は苦笑する。
「竜ヶ峰君も理数系は点数高いです。すごいですよ」
「それだけだけどね・・・」
「ふふふ」
机にへたる帝人に優しい笑みをこぼして、杏里は母親のようにその頭をなでる。
短い黒髪がサラサラと手の間を通り抜けた。
ぺったり頬を机にくっつけたまま帝人が杏里を見つめると、
「みっかどぉ!聞いてくれよー!俺英語のテストさっき返ってきたんだけどっさぁ!なんとなんと92点!すごくね?俺すごくね!?」
ばしーんと開けられたドアが横にぶつかってカラカラと戻ってくる。
明るい茶髪の友人が満面の笑みで叫ぶ姿に、帝人は呆れ100%で出来たため息を吐いた。
突然のことにクラス全員が静かに正臣の姿を見つめる中
「紀田ー、今は授業中だぞー。竜ヶ峰への報告は後にしてとっとと戻れー」
教師の疲れきった声が、教室内に拡がった。
+
<体育について>
「・・・俺気付いちゃったんだよね、シズちゃん」
「・・・・・・・何がだ」
臨也はナイフを構え、静雄は教卓を持ち上げた姿勢での会話である。
教室内には授業中だというのに2人以外の人の姿は見えない。
この2人が揃っているところに誰かが近づくことなど早々ないのだが。
ちなみにここは静雄の教室であり、単に臨也が喧嘩を吹っかけにきたのだ。
廊下で逃げ遅れた教師と、呆れ顔の京平が中の様子を伺っている。
ナイフを静雄に突きつけながら、視線はグラウンドのほうへ向かっている。
その視線の先を辿ると静雄の目に見えたものは、2年生が体育の授業でサッカーをしている姿だった。
暑いだろうに楽しそうに駆け巡る生徒たちの中に、静雄の鳥類並に良い視力で、はっきりと帝人の姿を視認した。
合同体育で正臣と笑いあいながらボールを取り合っている。
最終的に運動が苦手な帝人がボールを奪われ、正臣がシュートを決めていたが、静雄的にはどうだってよかった。
帝人の明るい笑顔、ボールを取られた悔しそうな顔、短パンの下から覗く細い足、汗の流れる首筋・・・天敵である折原臨也のこともそっちのけで、じぃっと眺める。
「・・・俺、気付いたんだよ」
「・・・・・だから何が」
2人して窓に張り付いて帝人を目で追いかける。
いつの間にか教卓とナイフは放り出されていた。
「帝人君には、ブルマがいいんじゃないかなって」
「・・・・・・・・お前、たまには良いこと言うな」
決して分かり合えない2人が、窓枠の下で固く手を握り合った瞬間だった。
+
<静雄とお片づけ>
自他共に認める暴れん坊である静雄は、現在日の光を遮る樹の下で座り込んでいた。
そよそよと涼しい風が吹いている。
先程買ってきたペットボトルのお茶を飲むと、ふぅっと一息ついた。
見つめる先にあるグラウンドは、まさに戦場跡だった。
ところどころにクレーターができており、サッカーゴールは倒壊し歪んでいる。
自らが引き起こした惨状を改めてみると、その酷さに後悔の念が渦巻いた。
「何でやっちまうのかな・・・」
重苦しいため息をついて、もう一口お茶を飲む。
これを飲み終わったらせめてあのゴールは何とかしに行こう、と決心をしていると、校舎の裏手側から一人の少年が歩いてきた。
少年は静雄を見つけると、嬉しそうに名を呼んだ。
「あっ、静雄さん!こんにちは」
「・・よぉ、竜ヶ峰か。こっち来るとあぶねーぞ」
「危ない?」
そう言ってキョロキョロと視線をさ迷わせた帝人の目に、グラウンドの惨状が映った。
あー・・と苦笑交じりにつぶやくと、静雄の隣にぺたんと座り込む。
無意識に肩までの高さしかないその小さな頭をわしゃわしゃ撫でると、静雄は「飲むか?」とペットボトルを差し出した。
「ありがとうございます!喉乾いてたんで・・・」
それでも控えめに一口飲んで静雄にペットボトルを返すと、帝人は改めてグラウンドを見た。
まるで砲弾で穴を開けたようになってしまっているクレーターには苦笑しか浮かばない。
(まぁ人を殺してないだけマシだよね・・)
明らかにランクが下がっている。
「今日もわけわかんねー高校のやつらが来やがって・・・ノミ蟲のやつも来てさ、俺だってんなことしたくねーんだけど、喧嘩吹っ掛けられるし、ノミ蟲は殺してぇしで・・・」
「お気持ちはわかりますが」
「わかるか?そうだよな、やっぱりノミ蟲は殺したいよな?」
同意を求める静雄に、心の中でどう返すべきかと軽く焦る。
帝人としては静雄の力も、臨也の情報力も重要であって、どちらか片方よりは両方あってくれたほうがありがたい。
ここで静雄に同調してしまうと、きっとあの碌でもない情報屋のことだ。必ずこの件をあげつらって絡んでくる。
一瞬で計算した帝人は、横に座る静雄の顔を下からじぃっと覗き込んだ。
この体勢の何がいいのかよくわからないが、こうすれば静雄や臨也がお願いを聞いてくれる率が高いことを、もう帝人は学んでいた。
案の定、顔を赤くして視線をちらちらと逸らす静雄に、極めつけとばかりに満面の笑みを浮かべた。
「静雄さん、一緒にグラウンドのお片づけ、しましょう?」
ペットボトルを持っていない方の手を握る。
出会った頃と変わらず、リンゴ並みに顔を赤くした静雄は「お、おおおおう」とどもりながらブンブンと勢いよく何度も首を縦に振った。
ここで逃げないでいられるのが成長の度合いを表している。
もうちょっとだけこうしていたい――、と静雄が帝人に告げられるようになるまでには、もう少し時間がかかりそうだった。
学生の本分は勉強である。
不文律のように掲げられた言葉ではあるが、それが学生自身にとって楽しいものかといえばそうではない。
例にも漏れず、竜ヶ峰帝人はテストの出来に一喜一憂していた。
「なんで古典なんてあるのかな・・・昔の言葉遣いなんて知って何か役に立つの」
「知識を吸収するのは、いいことですよ」
平均点ギリギリの返却されたテストを手にぼやく帝人に向かって、杏里が穏やかに告げる。
間違ってはいない、が、正論に返す言葉もなく帝人は重苦しいため息を吐いた。
隣の席に座っている杏里の机には、97と赤文字で書かれたテストが置かれていた。
(間違えた1問が気になるよ・・)
さすがは成績オール5である。
帝人から見れば目が飛び出そうな点数だった。
「園原さんは頭良いよね。すごいなぁ」
やたらと感情のこもった声に、杏里は苦笑する。
「竜ヶ峰君も理数系は点数高いです。すごいですよ」
「それだけだけどね・・・」
「ふふふ」
机にへたる帝人に優しい笑みをこぼして、杏里は母親のようにその頭をなでる。
短い黒髪がサラサラと手の間を通り抜けた。
ぺったり頬を机にくっつけたまま帝人が杏里を見つめると、
「みっかどぉ!聞いてくれよー!俺英語のテストさっき返ってきたんだけどっさぁ!なんとなんと92点!すごくね?俺すごくね!?」
ばしーんと開けられたドアが横にぶつかってカラカラと戻ってくる。
明るい茶髪の友人が満面の笑みで叫ぶ姿に、帝人は呆れ100%で出来たため息を吐いた。
突然のことにクラス全員が静かに正臣の姿を見つめる中
「紀田ー、今は授業中だぞー。竜ヶ峰への報告は後にしてとっとと戻れー」
教師の疲れきった声が、教室内に拡がった。
+
<体育について>
「・・・俺気付いちゃったんだよね、シズちゃん」
「・・・・・・・何がだ」
臨也はナイフを構え、静雄は教卓を持ち上げた姿勢での会話である。
教室内には授業中だというのに2人以外の人の姿は見えない。
この2人が揃っているところに誰かが近づくことなど早々ないのだが。
ちなみにここは静雄の教室であり、単に臨也が喧嘩を吹っかけにきたのだ。
廊下で逃げ遅れた教師と、呆れ顔の京平が中の様子を伺っている。
ナイフを静雄に突きつけながら、視線はグラウンドのほうへ向かっている。
その視線の先を辿ると静雄の目に見えたものは、2年生が体育の授業でサッカーをしている姿だった。
暑いだろうに楽しそうに駆け巡る生徒たちの中に、静雄の鳥類並に良い視力で、はっきりと帝人の姿を視認した。
合同体育で正臣と笑いあいながらボールを取り合っている。
最終的に運動が苦手な帝人がボールを奪われ、正臣がシュートを決めていたが、静雄的にはどうだってよかった。
帝人の明るい笑顔、ボールを取られた悔しそうな顔、短パンの下から覗く細い足、汗の流れる首筋・・・天敵である折原臨也のこともそっちのけで、じぃっと眺める。
「・・・俺、気付いたんだよ」
「・・・・・だから何が」
2人して窓に張り付いて帝人を目で追いかける。
いつの間にか教卓とナイフは放り出されていた。
「帝人君には、ブルマがいいんじゃないかなって」
「・・・・・・・・お前、たまには良いこと言うな」
決して分かり合えない2人が、窓枠の下で固く手を握り合った瞬間だった。
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<静雄とお片づけ>
自他共に認める暴れん坊である静雄は、現在日の光を遮る樹の下で座り込んでいた。
そよそよと涼しい風が吹いている。
先程買ってきたペットボトルのお茶を飲むと、ふぅっと一息ついた。
見つめる先にあるグラウンドは、まさに戦場跡だった。
ところどころにクレーターができており、サッカーゴールは倒壊し歪んでいる。
自らが引き起こした惨状を改めてみると、その酷さに後悔の念が渦巻いた。
「何でやっちまうのかな・・・」
重苦しいため息をついて、もう一口お茶を飲む。
これを飲み終わったらせめてあのゴールは何とかしに行こう、と決心をしていると、校舎の裏手側から一人の少年が歩いてきた。
少年は静雄を見つけると、嬉しそうに名を呼んだ。
「あっ、静雄さん!こんにちは」
「・・よぉ、竜ヶ峰か。こっち来るとあぶねーぞ」
「危ない?」
そう言ってキョロキョロと視線をさ迷わせた帝人の目に、グラウンドの惨状が映った。
あー・・と苦笑交じりにつぶやくと、静雄の隣にぺたんと座り込む。
無意識に肩までの高さしかないその小さな頭をわしゃわしゃ撫でると、静雄は「飲むか?」とペットボトルを差し出した。
「ありがとうございます!喉乾いてたんで・・・」
それでも控えめに一口飲んで静雄にペットボトルを返すと、帝人は改めてグラウンドを見た。
まるで砲弾で穴を開けたようになってしまっているクレーターには苦笑しか浮かばない。
(まぁ人を殺してないだけマシだよね・・)
明らかにランクが下がっている。
「今日もわけわかんねー高校のやつらが来やがって・・・ノミ蟲のやつも来てさ、俺だってんなことしたくねーんだけど、喧嘩吹っ掛けられるし、ノミ蟲は殺してぇしで・・・」
「お気持ちはわかりますが」
「わかるか?そうだよな、やっぱりノミ蟲は殺したいよな?」
同意を求める静雄に、心の中でどう返すべきかと軽く焦る。
帝人としては静雄の力も、臨也の情報力も重要であって、どちらか片方よりは両方あってくれたほうがありがたい。
ここで静雄に同調してしまうと、きっとあの碌でもない情報屋のことだ。必ずこの件をあげつらって絡んでくる。
一瞬で計算した帝人は、横に座る静雄の顔を下からじぃっと覗き込んだ。
この体勢の何がいいのかよくわからないが、こうすれば静雄や臨也がお願いを聞いてくれる率が高いことを、もう帝人は学んでいた。
案の定、顔を赤くして視線をちらちらと逸らす静雄に、極めつけとばかりに満面の笑みを浮かべた。
「静雄さん、一緒にグラウンドのお片づけ、しましょう?」
ペットボトルを持っていない方の手を握る。
出会った頃と変わらず、リンゴ並みに顔を赤くした静雄は「お、おおおおう」とどもりながらブンブンと勢いよく何度も首を縦に振った。
ここで逃げないでいられるのが成長の度合いを表している。
もうちょっとだけこうしていたい――、と静雄が帝人に告げられるようになるまでには、もう少し時間がかかりそうだった。