学パロ短編集
<廊下にて>
「あぁぁ帝人先輩!せんぱい!こんにちは!会えて嬉しいです。こんなところですれ違うなんて、僕らはむしろ運命なんじゃないでしょうか!?」
「あはは電波?」
目をキラッキラと輝かせた見た目だけは可愛らしい後輩、青葉の口から飛び出す言葉に、帝人はさわやかにぶった切った。
少々やんちゃをしていた青葉に、ダラーズの力を使ってではなく帝人は真正面から向かい合った。
その結果、青葉の手には一生消えない傷が残され、帝人には一生付きまとうかもしれない後輩ができた。
(まさか刺されて喜ぶとは・・・)
遠い目になる帝人に、「憂い顔も可愛いです!」と舎弟のように褒めたたえる青葉。
見た目だけは可愛らしい2人組に、事情を何も知らない生徒(3年)は微笑ましいとばかりの笑みを向ける。
しかし廊下の先からツカツカと歩いてくる人物を見て、生徒たちは一斉に散開した。
「廊下のど真ん中で何してるわけ?」
学ランの中に赤シャツを合わせた臨也だった。
バチリと臨也と青葉の視線が音を立てて絡み合う。
「あんたこそ何の用ですか?帝人先輩は今僕と喋ってるんですけど」
「どうせまた電波なこと言って帝人君を困らせてたんだろ。自重しなよ」
「・・・臨也さんにだけは言われなくないと思いますよ、それ」
思わず突っ込んでしまった帝人に、青葉に向ける視線とは全く逆の柔らかい目で臨也は笑った。
「あぁ帝人君。今日のお昼一緒に食べない?奢ってあげるよ」
「お弁当があるので結構です。お昼は正臣と園原さんと一緒なので、それも結構です」
「つれないなぁ、そういうところもイイけどね。あ、じゃあそのお昼俺も入らせてよ。それならいいでしょ?」
にっこりと人好きのする頬笑みを浮かべる臨也だったが、ケッと青葉が顔に似合わない冷たい表情で
「友達同士で食べてる所に割り込むとか、空気読めよ3年」
と吐き捨てた。
口元は変わらず笑みを浮かべたままの臨也の目は笑ってない。
くるっと青葉は帝人のほうへ体を戻して
「せーんぱい、明日は僕と一緒にお昼いかがですか?」
「明日も正臣たちと食べるから無理」
そう言ってさっさと歩きだしてしまった帝人の背中を見て、
「あぁっクールな先輩も最高です・・・!」
と感極まった声を上げる青葉に、臨也は(何この気持ち悪い子・・)という視線を向けていた。
が、同時に(とっととどっか行けよホントにこいつKY)と青葉に思われてもいた。
+
<教科書>
学校の机の中とはどうなっているものだろうか。
ほとんどの学生は机に教科書やノートをごっそり入れたままにしているものだと思う。
ご多分にもれず、帝人の机の中やロッカーには教科書が入っている。
大体あんな重い資料集を、それほど近くない家から学校までの道のりを持って行って帰ってしなければならない意味がわからない。
そして辞書は凶器だと思っている。
「しまった・・・」
だが宿題とは予期せぬときにきて、そしてそのためには教科書を持って帰らなければならない事態に陥ることもままある。
つまり、
「教科書忘れてきちゃった」
「私の、見ますか?」
呟かれた独り言に、杏里が反応する。
「え!?いやいいよ。正臣とかに借りてくるよ」
「・・・わかりました」
元々杏里と帝人の席は離れている。
杏里が帝人に教科書を貸してしまったら、結局は杏里が隣の席の誰かに教科書を見せてもらわなければならなくなるのだ。
それでは貸し借りをする意味がない。
(席、隣だったら・・・残念)
と思春期の少年らしいことを思うが、こればっかりはどうしようもない。
仕方ない、と腰を上げた帝人の背後から、にょきっと手が差し出される。
「え、わっ!?」
両肩の上に腕が乗せられて、後ろから首に齧りつくような軽く抱き締められる姿勢になる。
慌てて振り返った帝人の顔のとても近くにニヤリと笑う秀麗な顔。
「臨也、さん?」
「はぁい君の折原臨也です。お困りのようだねぇ帝人君」
にまにまと口の端を歪めて笑う。
杏里が警戒するように一歩前に出るのを、視線で大丈夫、と伝えると
「何か用ですか臨也さん」
離れてほしいという気持ちをたっぷり含んだ冷たい声でたずねる。
すると臨也は抱きしめていた片手を放して、その手に握ったものをプラプラと振った。
バサリと音がして紙がめくれる。
「これなーんだ?」
「教科書・・・ですか?」
「だぁいせーいかーい。そんな教科書を忘れた可哀そうな帝人君にはこれを差し上げます」
「え、臨也さん学年違うじゃないですか。いりませんよ」
「あぁ大丈夫だよ!」
不審な顔をする帝人に、いっそう晴れやかに笑った臨也は
「これ、帝人君の家から持ってきた君の教科書だから!」
とのたまった。
ピシリと表情を凍らせた帝人に、つらつらと「安心してね、合鍵はちゃんと俺が管理してるから!あ、あとまた冷蔵庫が空になりかけてたから食材入れておいたよ、一緒に晩御飯食べようね。もしくは俺の家に住んでくれても全然構わないんだけど!」と臨也は続ける。
とても自然な流れで日本刀を手から出そうとする杏里に、帝人は笑いかけてから、すぅっと息を吸い
「静雄さあぁぁぁぁんっ!!助けてくださぁぁあいっ!!」
久しぶりに腹から声を出した。
顔を引き攣らせた臨也が帝人から離れるより早く、ドドドドと地響きと校舎が揺れる音がする。
ドアが吹き飛ぶのと同時に窓から脱出した臨也の後ろ姿を眺めながら、帝人は重苦しいため息をついた。
(もう二度と教科書は持って帰らないことにしよう・・・)