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白に帰す

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白い光を跳ね返す猫足バスタブの中に首をのばして、ぼうっと中を覗き込んだ。汲まれた湯はまだ温かいらしい。その水面はぼんやりとスペインの顔をうつしている。ひどい顔だった。自分はもうこんな、廃人のような表情に成り下がってしまったのか。悔しいような、しかしながらなにもかもどうでもいいような気さえしていた。何で俺やったらあかんのやろなあ…。
つぶやいた声は静かな吐息とともに、水面を揺らした。熱くなった眼球のくぼみから、静かに涙が垂れる。それは頬を、そうして顎を伝って、ゆっくりとバスタブの底に沈んでいく。眼球の裏がわ、呼吸をこらえた喉、震える足裏から体温が上へ上へとのぼって、そのすべてがあつい。


泣きはらしたまぶたをこすって、スペインはバスタブの中にゆるゆると足から身体を沈めた。随分長い間泣いていたらしい。底の方はかすかなぬるさを保っているが、表面はやはり冷たくなってしまっている。湯に沈めた身体が石のように重い。まるで動かない。スペインはどこか穏やかなこころもちで、静かに目を伏せた。するとまぶたの裏で、数十分前の記憶がぐるぐると巻き戻っていく。
……イギリスとのセックスは、おまえとするよりよっぽど人間的で良いよ。部屋を出しなそう罵った、あの苦々しい表情。眉間の間の深い皺。どこまでも淡青に広がる瞳。弓なりに曲がる乾いたくちびる。硬質そうな喉仏。ゆるやかな稜線をえがくてのひら。珍しく着崩されたシャツからのぞく、鎖骨にかかるプラチナのネックレスチェーン。一筋だけ小さな皺の寄ったスーツ。それらは記憶のなかで今に触れられそうなほど生々しいのに、手を伸ばしてもむなしく空をきるばかりである。どうせあのネックレスだって、あの男からの贈りものに違いない。おだやかだったはずのスペインの心は、再び、水面をたたいたようにぐわんぐわんと揺れ始めた。……ドイツ、なあ、なんで、なんでやの…。
スペインは耐え切れず両手で視界をふさいだ。光のない冥暗のなかですらまぶたに焼き付いてはなれないのは、やはりあのひとの白い肌。吐息の多くまじった声が鼻腔から抜けていく。そうしてヒッと喉が上下した。視界をふさいだ両手に涙の染みが広がって、指の隙間からどんどんと溢れていく。あのひとから香る栗のにおいが、自分のものだけだったら良かったのに。ふとそういうことを考えて、スペインはとっさにその思いをかき消した。
どれほど他の男に抱かれようとも、彼の背中があの男にひるがえることはきっとない。否、それはもっとつよい否定で締めくくることができた。絶対に、ない。


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作品名:白に帰す 作家名:高橋