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【土沖】土方にあげたい沖田と扉を開けない土方のハロウィン

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導火線に火を着けた。

そうしたら、灰色の目に短い緊張が走り、即座に花瓶の水をぶっ掛けられたので相当に吃驚した。土方が強い力でこちらの手首を掴み、秋の夜、沖田の和毛(にこげ)はびしょびしょだ。顎からいくつも水滴が落っこち、体は殆ど濡れている。瞬きを三度重ねると、「おっまえなァ……」と、低い声が畳を這って上ってくる。


その日はつまるところ十月三十一日のハロウィンだったので、食堂での夕飯をおいしく平らげて一息ついた沖田はもちろん土方の部屋に行った。右手には先週部屋に忘れて行かれた百円ライターを持ち、左手には、丹精込めて作った特性爆弾をひとつ。

金木犀の散った中庭はもうそろそろ冬景色前の紅葉に差し掛かるところで、そこに面した廊下を歩けばすっかりと寒い。その上気配をあんまり外に残すと目標に不審がられるので、障子の向こうに灯かりがあるのを確かめたら早々に手を掛けて中へ入った。文机に向かっていた土方が胡乱げに振り返り、何かしら声を掛けてくる前に畳へ腰を下ろし、てきぱきと爆弾に着火したところで、「ばしゃん!」。



「殺す気か、馬鹿!」



水浸しの頭に声がびりびりと響き、沖田は首を引っ込める。瞑った瞼の上にも水が伝って散々な有様だ。職業病の条件反射で抜刀ぐらいはされるかもしれないと思っていたけれど、まさか頭から水を被ることになるとは想像だにしなかった。
むかし山崎が公園の鳩に触ったことがあるのが人生最大の自慢だと言っていたけれど、これだって滅多に出来ない経験じゃあないだろうか。貴重だ。いつもなら沖田の方が体温は高いはずなのに、手首を掴んだ土方の両手がとても暖かい。


瞑った目をそろそろと右だけ開けてみたら、注がれるまなざしは細く鋭いものの、どうやら怒ってはいないようす。沖田は、土方のそういうところにいつもいつも目を見張りたくなる。
けれどそれにしたって、この人は、いまさら俺に向かって何を言うんだろうと不思議になった。


「殺す気ですぜ」
それから、ことんと首を右に傾ける。