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こころのむこうがわ2

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どうしたものだろう。

新羅は悩んでいた。
『新羅、どうみても臨也のほうが加害者だ。早く臨也は警察に突き出すなりして、
 帝人と離すべきだ。』
珍しく血相を変えてそうPDAに打ち込む恋人に、新羅はますます頭を抱える。
セルティの言うことは尤もだ。
大怪我をして病院に入院している正臣から、杏里を通して連絡があって、
何とか突き止めた臨也の隠れ家に踏み込んだとき、部屋の中には真新しい血の匂いが充満していた。
ベッドの上には、胸部に深い傷を負った臨也と、首筋から血を流す帝人が横たわっていた。
臨也はかなりの出血で、その時まだ辛うじて息があったが、到底助からないように思われた。
また、帝人は首筋の傷は致命的なほどではなかったが、体全体が極端に衰弱しており、そちらの方が深刻だった。
状況から、恐らく帝人が臨也を刺し、自らの命も絶とうとしたと察せられるが、
帝人の状態、正臣の証言から、臨也が事の発端であることは間違いなかった。
必死の治療の結果、臨也は一命を取り留め、帝人の体も少しずつ、回復の方向に進んでいる。
真っ当に考えるなら、例え臨也が動ける状態にないとしても、
あの二人は近くにいさせるべきではないだろう。
ちらりと、リビングから見える2つの個室の扉に目を遣る。
それぞれの部屋のベッドにいる、問題の二人のことを考え、溜息をつく。
セルティの言うとおりにすべきなのだろう。
だが、正臣の願いで、セルティと共に帝人を救出しに赴いた新羅は、その時見た光景が頭から離れなかった。
臨也から相当酷い仕打ちをされたことが推測されるのに、帝人はあの時、まるでその臨也に寄り添うように横たわっていたのだ。
単にたまたまそんな格好になってしまっただけなのかもしれない。
でも、何かが引っかかって決断をためらわせる。
キッチンでコーヒーを入れながら、新羅が眉間に皺を寄せていると、リビングの方でがたりと物音がした。
「セルティ?戻った・・・の。」
出かけるときに告げていた時間より少し早いなと思いながら振り向いて、固まった。
そこには、壁に凭れ掛かりながらも、ずるずると部屋から歩み出てくる臨也がいた。
起き上がれるはずがないのに-----!!
「い、臨也!!」
慌てて臨也の方に駆け寄る新羅。
「ちょ、起き上がっていい状態じゃないんだよ、君!!」
そう言って、臨也の肩に手を掛けようとした新羅に向かって、光るものが突きつけられた。
「っ!」
それは、臨也がいた部屋にあった工作用のハサミだった。
ナイフほど鋭くはないが、十分凶器にはなる。
息を呑む新羅に、恐ろしい表情をした臨也は言った。
「帝人君、どこさ…。」
憔悴し落ち窪んだ目元と裏腹に、ぎらぎらと危うい光を放つ瞳。
一瞬、新羅は本気で身の危険を感じた。
「え、ええと、帝人君は…。」
言いかけたところで、玄関の方で物音がした。
「せ、セルティ…!」
しばらくして、リビングに現れたセルティは、驚愕したような間の後に、素早く影を生み出し、
臨也のもったハサミを弾き飛ばした。
「…っ!!」
衝撃で体勢を崩し、うずくまる臨也。
『新羅、大丈夫か!?』
新羅に駆け寄り、心配そうにPDAに打ち込むセルティに、「大丈夫、ありがとう、セルティ。」と微笑んで伝えてから、臨也の様子を見る。
俯いた表情は見えないが、呼吸が不安定になっている。
「臨也…。」
呼びかけるが、反応がない。
慎重に近づき、様子を覗うと、臨也の瞳は苦しげに閉じられ、触れても全くの無抵抗だった。
気絶しているようだった。
新羅は溜息をつき、天井を振り仰いだ。
ああもう、どうしろと言うのか…!

次に臨也が目覚めたのは、ちょうど新羅が臨也の容態を見ている時だった。
薄っすらと目を開いた臨也に、「臨也?」と試しに問いかけると、しばらくしてから、「ああ…。」と反応があった。
思わず身構えていた新羅は、先日とは全く異なる静かな臨也の様子に首を傾げる。
体で特に痛いところとかない、などと問診を行っていると、それまで無言だった臨也がぽつりと口を開いた。
「…みかどくん、は。」
臨也らしくない頼りなげなその口調に、新羅は目を瞬かせてから、慎重に答える。
「命に別状はないよ、ただ体がひどく衰弱しているから、その回復に時間がかかるかもしれない。」
そう伝えると、臨也は「そう…。」とだけ言った。
まるで無関心なようなその反応に、新羅は、さすがにこれは言っておかねば、と続けた。
「臨也…、何があったか君が教えてくれるとは思ってないけど…。
 帝人君は、自分で自分の首を切り付けたんだよ。」
あの体の状態のせいで、致命傷に至るような傷は付けられなかったみたいだけど。
責める口調で言う新羅に、臨也はしばらくの沈黙の後に、溜息のような声でもう一度、「そう…。」と漏らしてから、目を閉じた。
その後、新羅が何を問いかけても返事が返ることはなく、新羅はまた溜息をついた。
それから、最初の一件以来、臨也は不気味なくらいおとなしく、真っ当な患者として新羅の家で過ごし、
少しくらいなら外出しても大丈夫、という段階になったところで、突然新羅の家から姿を消した。
新羅は、何となく仕事用の口座を確認して、破格の治療費が振り込まれているのを見て呆れながらも、
帝人についても、ただの過労だと言い張れる程度まで様子を見守った。


作品名:こころのむこうがわ2 作家名:てん