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花言葉は復讐+続編-手繰る糸、繋ぐ先

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#2


 俺達はしばらくの間、ホラー映画にでも登場しそうなその洋館の雰囲気に呑まれていた。
 
 人里離れた場所に、たった一軒ぽつねんと存在する異様。
 周囲の深い森も、悪魔的なモチーフをあしらった厳つい門構えも、金持ちの別荘にしたってあまりにも不気味で悪趣味だ。
 暗雲立ち込める上空に時折走る稲光によって照らし出されるたたずまいは、とても管理が行き届いているようには思えない。建物自体老朽化が進み、ほとんど廃墟のように見える。
 こういう時でもなければ、俺は眉を顰めて素通りしていたに違いない。
 
 ふと横を見れば、坂上は虚ろな瞳で館を見つめていた。それは目の前の情景を眺めているというよりも、それを通して何か別のものを回想しているかのようだった。
 
「坂上?どうした?」
「あ、いえ……凄いお屋敷ですね」
 
 妙な胸騒ぎがして呼びかけると、坂上はハッと我に返りごまかすように笑った。その態度が気になりはしたものの、急に降り出した激しい雨のおかげですぐに忘れてしまった。
 
「しょうがない、雨宿りさせてもらうか。走るぞ!」
「はいっ!」
 
 俺達は風に揺れて悲鳴のような音を立てる門をくぐり、館へと続く石畳の上を駆け抜けた。
 大粒の雨によって既に足下には水たまりが広がり、地面を蹴るたび脚に飛沫が跳ねる。
 玄関につく頃には、俺も坂上も頭から爪先までずぶ濡れになっていた。
 古めかしい洋館にはインターホンなどついている筈もなく、そのかわり髑髏を象ったノッカーがあった。
 
「ごめんください!」
 
 ノッカーを鳴らしながら礼儀正しく挨拶してみたが、中から人が出てくる気配は無い。
 
「誰かいませんか!?」
 
 坂上が一度玄関から出て窓を控えめに叩いたが、やはり反応は無かった。
 
 項垂れて戻ってきた坂上の濡れた髪から、ひたひたと雫が滴り落ちる。風が唸るたび肩を震わせ、放っておけば風邪を引いてしまいかねない。
 俺も寒気がしてきた。このままでいればお互い身体を壊すだろう。
 
「仕方ない、勝手に上がらせてもらうか」
「え?でも……」
「どうせ誰も住んでないさ。怒られたら謝ればいい。相手がどんな人であれ、いくらなんでもこの雨の中に放り出したりはしないだろ」
 
 希望的推測に過ぎないが、そうであることを祈るしかない。
 不安そうな坂上に大丈夫だと笑いかけて、俺は重厚な造りのドアを開けようとした。
 ──そこである事に気付く。ドアノブが無いのだ。
 
「何だこりゃ」
 
 後から取り外されたというわけではなく、最初から無いとしか思えない。
 
「ど、どういうことでしょうか……」
「落ち着け坂上。こういうときはよく考えてみるんだ」
 
 ドアノブが無ければドアは開けられない……本当にそうだろうか?それは俺達の思い込みに過ぎないんじゃないか。
 ここは……。
 
「見た目に騙されるな。押して駄目なら引いてみろ」
 
 俺は己の勘を信じ、扉の凹凸に上手く手を入れ、そのまま思い切って横にスライドさせてみた。
 
 ガラガラガラガラ……。
 
「……やはり引き戸だったか」
「す、すごい見掛け騙しですね……」
「そうだな。だが、鍵が掛かってなくてよかったよ」
 
 こんなこてこてのヨーロッパ建築で古式ゆかしい引き戸を採用するとは、この館を造った奴はよほどの変わり者だろう。
 
「お邪魔します……」
 
 恐る恐る、館の中へ足を踏み入れた時だ。まるで俺達の来訪を歓迎するように、突然明かりがともった。
 豪奢なシャンデリアから注がれるオレンジ色の柔らかな光によって照らし出されたエントランスは、正面に階段があり、その右脇には中世の鎧が、そして左には大きな柱時計が置かれていた。どちらも年代物のアンティークだろう。天井は吹き抜けになっており、二階部分は回廊状だ。
 
「何だ?やっぱり誰かいるのか?」
「だと思いますけど……ごめんくださーい!」
 
 大声で呼びかけてみるが、住人は姿を見せない。
 
「まさか俺達をからかってるんじゃないだろうな」
 
 だとしたらこの館の主は相当悪趣味だ。顔を合わせたら文句を言ってやらなければと考えていると、坂上が間の抜けた声を上げた。
 
「あれ?」
「どうした、坂上」
「あの……僕達ここから入ってきましたよね?」
 
 坂上と同じように振り返ってみて唖然とする。
 たった今入ってきた筈の扉が、消えていた。そこにはただの壁があるだけだ。
 
「……何の冗談だこれは」
 
 あまりのことにげんなりとして呟くと、まるでそれに応えるように二階から物音がした。ドアを閉めた時のような音だ。
 
「なんだ、やっぱり誰かいますよ」
「だな。挨拶しに行こう」
 
 玄関が消えたのも、何か種や仕掛けがあるに違いない。
 俺達はやや肩をいからせて階段を上りはじめた。一段上がるごとに鈍い音を立てて軋む。二人分の足音に紛れて、別の音が耳についた。
 
 キィ、キィ……。
 
 例えるならそれは、ブランコが揺れる音に似ていた。左側の通路の突き当たりにある部屋から聞こえてくるようだ。
 ……まさか家の中にブランコがあるわけでもないだろう。
 
「ここだな」
 
 俺達は問題の部屋の前に辿り着くと、やや緊張しながらゆっくりドアを開けた。
 
 キィ、キィ……。
 
 相変わらずあの音がするが、部屋は真っ暗でよく見えない。
 
「スイッチは何処だ……?」
 
 手探りで照明をつけようとした瞬間、窓の外に稲光が走る。
 
「うわ!」
 
 一瞬の光に照らされて浮かび上がったのは、異形の影だった。
 揺れる車椅子、その上に乗る男の身体、そしてその頭は……。
 
「ば、化け物っ!!」
 
 ──緑色のアンモナイト。
 
 今回の取材の目的に意外な場所で遭遇した俺達は、ジャーナリストの本分も忘れて逃げ出した。 
 
 
 

「はぁ、はぁ……あれは一体……」
 
 再びエントランスに戻った俺達は、床に座り込んで乱れた息を整えた。
 
「……坂上」
「はい?」
「冷静に考えてみれば、あれは被り物をかぶったこの館の主なんじゃないか」
 
 段々落ち着いてきた俺はそうとしか考えられなくなり、怒りが込み上げてきた。
 
「……そう言われてみれば、そうですよね。あんな生き物、いるわけないですし」
 
 坂上も俺の推理に頷き、口を尖らせて二階のあの部屋のある方を睨む。
 
「……確かめに行こう」
 
 俺達は頷き合って、再び二階へと向かった。