二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

考えるのではなく、感じるもの

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
 雑誌を読みつつ休日を満喫していたセーシェルのところにやってきたイギリスは、神妙な顔をして言った。
「異文化交流ってのは複雑怪奇だな」
「はぁ?」
 言うに事欠いて今さら何をのたまうか。セーシェルよりもうんと長生きしているくせに。怪訝そうなセーシェルにはかまわず、イギリスは持っていた携帯電話をおざなりに放り出す。電話を掛けてくると出ていって、戻ってくるなり開口一番にこれである。
「あいつとはどうも、たまに話が合わない時があるんだよなぁ」
「って、お仕事の電話じゃなかったんですか?」
「お、お前なぁ!俺だって仕事以外で電話する相手くらいいるわバカァ!」
「ひぇ!ですよねそうですよねぇ!」
 慌てて謝ってはみたものの、本音は本音である。
「イギリスさん……なんか疲れてます?」
「そんなんじゃねーんだけど、ちょっとな」
 電話の相手と口論でもしたのだろうか。それならもう少し、イギリスが苛立っていそうなものだが。
 喧嘩の後というにはどこか覇気がない。煮え切らない顔で、イギリスは言う。
「二次元の何がいいんだろうな」
「あー……」
 相手を特定した。こんな会話をできるのはあの島国しかいない。
 あの落ち付いた声音で淡々と、あるいは普段の彼を知っていれば気圧されてしまう熱意でもって、《二次元》について語ったのだろう。
 嫌悪や侮蔑ではない、ただただ困惑を顔に浮かべて、イギリスは小首をかしげながら、実にさりげないモーションでセーシェルの身体を引き寄せる。
「うぇ?!」
 気づけば軽々とイギリスのひざの上に乗せられていた。腰には両腕が巻き付き、耳元を憂いを帯びたため息がかすめる。
 雑誌を取り落とす間もなく。完全に拘束されている。なんという早業。
「画面の向こうとか、本の中にしかいない女なんだろ?ナマで触れなきゃ意味ねぇだろ」
「こらぁっナマとか言うなあぁ!」
 セーシェルが好んで着ているサマードレスは、肩までが空気に触れるデザインだ。その剥き出しの肌に、イギリスの存外にやわらかい頬が押しつけられて、羽根でなぞるように滑っていく。ひゃっ、とセーシェルののどから声がもれた。雑誌を腕に抱いたまま身を固くする。
 背中を覆うようにイギリスの体温を感じて、セーシェルは思わず身じろぐのをやめてしまった。
「否定する気はねぇけど、なぁ」
 男と女の体格差。細身に見えるイギリスでも、セーシェルを腕に抱けばすっぽりと包んでしまえる。お腹の辺りを回った腕に力がこもる。
「目の前にいなきゃ、やわらかくないし、あったかくないし、においだって分からないし」
「においはダメ!それダメ変態っぽいから!」
「変態言うな、事実だろ。……なんか甘いにおいがするんだよな。あと、海のにおい」
「そ、そうですか?」
 においって。はずかしいことをさらっと言ってくれる。
 そうかなぁと混乱しながらもセーシェルは首をかしげる。素直に丸め込まれていいものか。でも、イギリスにこうしてぎゅっとされたら、細かいことなんてどうでもよくなって、ほだされてもいいかなと思ってしまうのだから大変タチが悪い。
「で、でもイギリスさんっ!」
「あん?」
「きゅ、急になんなんですか!お人形でもだっこするみたいに!」
 よく分からないうちに腕の中に囲い込まれて、まるで等身大の人形か抱き枕でも抱いているような。――生きた人間を相手にしていないように見えるのは、イギリスが言う《二次元》と大差はないのでは?
 ふと腕の力をゆるめ。イギリスはひょいっとセーシェルの手から雑誌を奪うと、彼女の身体を反転させて自分の方を向かせた。
「おいおい、お前は人形とかそんな可愛らしいもんじゃねーだろ?じゃじゃ馬のくせに」
「なんてこと言いやがりますか失礼な!」
 こちん、ひたいが軽くぶつかった。翡翠の瞳が甘く微笑んでいる。
「それに、俺は人形なんかとこんなことしねぇよ。だってお前がいるだろ?」
 セーシェルの怒り顔に赤みが差す。失礼なことを言ったその口で、相殺してしまうイギリスの言葉。惚れた弱み以外の何物でもない。
 ぐぅ、と言葉に詰まって、への字に結んだ唇を解いて。
 セーシェルがキスをしてやったら、満足そうなキスのお返しが降ってきた。