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考えるのではなく、感じるもの

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 セーシェルを囲ったままの腕が、かたわらに除けていた雑誌を拾い上げる。
「……で、何読んでんだ」
「『夏のモテファッション特集!』とか」
「興味あんのか、お前が」
「お前がってのはどういう意味でしょうねぇ!……まぁ別にいいですけど」
 実のところは『暑さを吹っ飛ばすスタミナごはん』って特集が目当てでページをめくっていただけだ。これでしばらくは夕飯の献立に悩まされなくて済む。ファッションの記事はひまつぶし程度で、ついでに目を通していたのだ。
 ふーんと興味なさげなあいづちを打ってはいるイギリスだけれど、『モテファッション』というキャッチコピーに引っかかっているのだ。セーシェルは笑って手を伸ばして、くせのある金の頭をなでてやった。
「浮気なんかするつもりないですよ。でもほら、女子たるものファッションには敏感でないといけないですし!」
「べ、べつに、浮気とか何とか気にしてたわけじゃねぇんだからな!勘違いすんなよ!」
「はいはい」
 つっかえながら言われたって説得力は皆無。なでる手を振り払われて、またセーシェルは笑う。
「俺はだた、お前がめずらしく雑誌をまじめくさって読んでるから」
「それはまあ、今夜の夕飯について悩んでたんですけどね」
「で、メニューは決まったのかよ」
「イギリスさんは何かリクエストありますか?」
「普通に食えりゃなんでもいいさ」
 イギリスさんの本領発揮は朝食ですもんね、と言ったら、「朝食しか能がないみたいに言うな!」と怒られた。食への関心が薄いひとを相手に食事を用意するのは、面倒な仕事である。
「んー、そうだ」――夕食の食材は二次元の話題の彼から連想して。
「獲ってきたまぐろがありますから、タルタルステーキとか」
「あー、ああ」
 イギリスは調理法がフレンチなのが少々気に食わない様子だが、ふたりの食事としては無難なチョイスであろう。
 雑誌をペラペラとめくり、セーシェルはもう一二品ほど小料理を探しながら。
「イギリスさん、否定するわけじゃないとか言ってましたけど、案外、理解できないのが悔しかったりするんでしょ?」
 ああともううともつかぬ唸り声が返ってきた。妙なところで気まじめな男だ。
「日本さんが言ってたのを憶えてるんですけど」
 いつしか、日本と話をする機会があった時に、どうしてそんな話題になったかは忘れてしまったけれど、印象に残っている彼の言葉をふと思い出した。
 その時は意味が分からなかったが、今は腑に落ちた気がする。
「頭で考えるのではなく、心で感じるのです!……だそうです」
「……」
「イギリスさん?……ぅえっ?!」
 指で顎をつかまれて、ぐいっと顔を向けさせられた。痛いのよりも驚きが強くて、目を丸くして、何をするのかと抗議して、それでも神妙な顔のままのイギリスに「……どうか、したんですか?」とおそるおそる訊く。
 ややあって、イギリスはこっくりとうなずいた。
「ああ、なんとなく分かった気がする」




End?

『《萌え》とは、頭で考えるのではなく、心で感じるものなのです』