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夏目詰め合わせ

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抱擁[田夏]



田沼が家に遊びに来る最近増えた気がする。実際そうなのだろう。塔子さんが嬉しそうな笑顔で黒髪の友達がよく来てくれると漏らしていた。考えてみれば、友人を家に連れ込んだ事なんてほとんどない。いや、妖は人間の暮らしなどお構いなしに窓から入ってくるわ、玄関を擦り抜けてくるわでやって来るが、人間の方は。

「ごめん夏目、今日は家に来たらまずかったか?」
「そんな事あるわけないだろ。どうしてそう思ったんだよ」
「夏目さっきからずっと微妙そうな顔してるだろ。何かあったんじゃないのか?」

 嬉しくてどんな顔すればいいか分からないだけ。と恥ずかしい台詞をあの年の離れた友人だったらすらすら言えてしまうのだろう。恐らく、彼なら言う。そういう仕事をしているのだから。
 とまあ、話は脱線してしまったが、一緒にいて楽しいと思っても逆は考えた時はなかった。田沼は妖について話せる数少ない人物で、何より彼は優しい。西村、北本とは違う、静かな優しさと言えばいいのだろうか。

「何もないよ。そんなに心配しなくても大丈夫だ」
「心配なんだ、夏目は思った事を隠したがる奴だから」
「田沼には言われたくないな」

 二人で顔を合わせて苦笑し合う。田沼といて暖かさを感じるのは確かだが、まだ距離の縮め方が掴めていない。西村達のようにはしゃいで抱き着けばいいのだろうか。

「田沼」

 田沼が声に反応すると同時に背後から抱き着いてみる。こうして近くでみると、混じりけのない綺麗な黒髪だ。本来の姿に戻った時のニャンコ先生の純白の毛並みとは正反対の色だった。

「俺は田沼が来てくれて嬉しいからな。だから気を遣ってるとかは全然考えなく、て」
「な、夏目……」

 黒髪から少し覗く耳が赤い。顔はどうなっているかなんてすぐに想像出来てしまったので、慌てて離れて距離を置く。友達同士とはやけにスキンシップが激しかったかもしれないし、何より自分のキャラではない気がした。こうやって人懐っこくじゃれたりするのは。

 それにしても、田沼の動揺ぶりには流石に驚いたが。

「悪い、田沼。ちょっとした試みのつもりだったんだ」
「あ、ああ」
「……そんなに可笑しかったか?」
「可笑しかったってよりも、その」

 こっちに顔を向けようとしない田沼の背中がやけに幼く見えた。声も少し上擦っている。

「…………………」
「…………………」

 ゆっくりゆっくり近付けていた距離がまた遠くなった。と思ったのは今だけで、田沼からも抱き着くようになったのはこの二日後からだった。

作品名:夏目詰め合わせ 作家名:月子