夏目詰め合わせ
白雪[斑夏]
ああ、寒いな。もう春は訪れたというのに外は白に埋め尽くされてしまった。その色が嫌いなわけではないし、雪合戦や雪兎を作るのも本当は好きだったりする。ただ、降る時を間違えたんじゃないかと思うと、子供心は途端に冷めていく。
蕾を実らせていた花も今は雪の下で眠っている。昨日までは柔らかな緑が広がっていたのに、一日で季節が巻き戻ったようだ。塗り替えられた世界は確かに綺麗だったけど。でも。
「今日は雪遊びをせんのか」
「雪って言ってもそこまで積もっていないからな。午後になったら晴れるらしいし、その頃になったら溶けるだろ」
「だったらここにいる理由もないだろう。私は帰るぞ」
「……ニャンコ先生遊びたかったのか」
本来の姿とは程遠い。こうしているとただの猫だ。のそのそと帰って行ってしまった先生には聞こえない程度に呟いてみる。先生が残した小さな足跡からは青々しい草が見えた。
花になる前に冷たくなってしまった花はどうなるのだろう。もう咲かないのかもしれないし、しぶとく花びらを開こうと必死になっているのかもしれない。出来れば後者でいて欲しいとぼんやりと考えながら瞼を閉じると全てが黒に包まれる。最近少し疲れが溜まっていたようで、瞼は再び開く事を拒絶する。こんな場所で寝てしまったら風邪を引くんじゃないかと思っていたくせに。
ふかり。どれだけ時間が経ったのだろう。ふかふかと柔らかい何かに全身が包まれる。暖かい。獣の毛だと気付いて一瞬身を強張らせたものの、すぐに安堵に浸った。
ふわふわ。先に帰ると言って本当に戻って言ったのに、どうしてまだここにいるんだろう。ついさっきまでの猫とは思えないほどの巨大な純白の獣の毛並みに包まれながらぼんやりと考える。それでも先生の思っている事なんて分かるはずはない。ちょうど尻尾のあたりを撫でても心が読めたりは出来ない。その暖かさが微睡みを誘うだけで。
「……花はまた咲こうとするかな、先生」
「それはお前が心配する事ではないぞ、夏目」
「そうだな、心配しなくても咲くだろうな」
「……起きろ。風邪を引く気か」