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Bellezza

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森の奥




空は灰色の雲がどんよりと重くたれこめ、陽が差す気配はまったくなかった。

次から次に降り積もる雪が、今にも吹雪そうな天気のなか、ただひたすらに馬を走らせた。


「クソッ!ふざけんな!!」


自分をこんな状況に追い込んだ元凶を罵る。

なんでオレがこんなところまで、こなきゃいけねェんだ!?

ようやく森の奥深くに佇む館の前に辿り着く。

そして周囲の寒々しい景色にそぐわぬその大きさと豪奢さに目を見張る。

何時どうやって、こんな巨大な物を建てたのか?

しかもこんな辺鄙なところである必要がどこにあったのか?

浮かぶ結論は、変人だから。

いや、ひょっとして、化け物だから?

馬から降り、館と周囲を囲い進入を阻む塀の巨大な門扉の前に進む。

どうやって開けようかと考える前に、するすると門がミスタを迎え入れるように開いてゆく。

ぴたりと足を止め、周囲の気配を探るが、気配はない。


「オイ、どーだ?」

「ダレモ イナイゼェ!」

「アブネェノハ イナイミタイダゾー」


小さな妖精の報告を受け、小さく息をつく。


しかしこの先には、どんな罠が仕掛けられているかわからない。

僅かに躊躇したが、ここでこうしていても、ここに来た意味がない。

ミスタは少しずつ慎重に歩を進めた。



そもそもミスタが、こんな状況になったのは、兄のミスだった。

ミスタには5人の兄弟がいた。

血の繋がりはあったり、なかったりする、おかしな兄弟だ。

半分だけ血が繋がっていたり、兄弟ではなく、もっと遠い親戚だったり、あるいはまったく血の繋がりはない者すらいた。

それでも家族たりえたのは、長男ブチャラティのおかげだろう。

彼は親を亡くした、あるいは捨てられた俺達を育ててくれた。

それは歪な形だったかもしれないが、彼が与えてくれた居場所は確かに家であり、彼は若くして父親の代理として立派に俺達を導いた。

そのことには、とても深く感謝している。

だからこそミスタも、彼のために、こんなところにまできた。

しかしできればもうちょっと慎重に行動して欲しかったと思う。


それはブチャラティが取引を終え、帰路についた時のことだったという。

途中で天候が崩れ、吹雪に巻きこまれたブチャラティは、遭難寸前のところで偶然にも人里離れた場所に建てられた館に辿り着き避難した。

館の主は突然の訪問者を快く歓待してくれて、吹雪の止んだ翌朝には無事に出発できることになった。

しかしそこでブチャラティは庭に咲いていた薔薇の花を一輪盗ってしまった。

ブチャラティ曰く真っ白な雪景色のなか、あまりに見事に咲いていたから、思わず手折ってしまったとのことだが、これが決定的に悪かったらしい。

屋敷の主は怒った。


「死にそうなところを助けて差し上げたのに、その礼が、それですか?恩を知らないにもほどがありますね」


たかが薔薇の花一輪。

とはいえ厳しい冬に、これほど見事に咲かさせるためには、さぞや手をかけたのだろう。

命の恩人に対する礼儀を欠いた行為にブチャラティは謝った。

けれど館の主は許さなかったらしい。


「この薔薇は僕にとって命ともいえる大切なものです。言葉だけの謝罪に意味はありません」


そして館の主は要求したのだという。

ブチャラティの命を。


「その要求を呑むわけにはいかない。家に兄弟を残してきている」


そうブチャラティが断ると、ならば別れの挨拶をしてきてもよいと館の主は許した。

けれど、もしこなければ、兄弟皆殺しですよ?と脅されたブチャラティは渋々頷いて、家に帰ったのだと言う。


作品名:Bellezza 作家名:真輪