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月明りの約束

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犬にされてしまった私を一目で見抜いたのも貴方だし、紋章や、他にも大切な物の場所を精霊や妖精の声を聞きながら的確に見つけていったのも貴方なのよ。
ロンダルキアへの洞窟の時だって、最後の紋章がどこかにあるから、それをまず探すために出直そうって、大切なことに気づいてくれたのはコナンよ。
貴方がいなかったたら、あのまま無意味に洞窟を進んでしまっていたわ。
それはラセルにも私にも出来ないこと。貴方の誇るべき力なのよ」
やさしく包み込んでくれるアイリンの言葉に、コナンは最初、目を瞬かせていたが、やがてその表情に笑みがさした。
「ありがとう、アイリン。そうだよね、これが僕の力なんだ」
明るく答えるコナンに、アイリンも笑顔で頷いた。
「うん! ねぇ…私にもザオリク、覚えられるかしら」
「え…」
顔から笑みを消し、真剣な眼差しで問うてくるアイリン。
そんなアイリンの声音に、コナンの顔からも笑みが消える。
アイリンは更に言葉を継いだ。
「死を知る覚悟はあるわ。貴方はラセルや私の為に頑張ってくれている。
私も貴方やラセルの力になりたい…貴方を守る力を持ちたいの」
「アイリン…」
今まで見たことも無いようなアイリンの眼差しに、コナンはただ彼女の名前しか呟けない。
そんなコナンの両手を、アイリンは両手でそっと包み込むように握った。
コナンの両手の震えが伝わってくる。
「貴方はいつもそうやって自分を犠牲にする。辛いことも1人で背負い込んでしまう。
私は、貴方を守りたい」
アイリンのその言葉に、コナンはこの時程彼女の心を強く感じたことは無かった。
ゆっくりと瞳を閉じて、コナンは自分の手を包んでくれる少女に答えた。
「アイリン…ありがとう。ザオリクを覚えられたら必ずアイリンに教えるよ。君は僕以上に死というのを知っているから、きっと覚えられる」
そう言い終わると同時に、コナンの手の震えが強くなった。
死というものを知っている…。
そう答えた時、アイリンにあの惨劇を思い出させてしまったかもしれない…そう思ったら手どころか、心さえも震えてしいそうだった。
ムーンブルク城の壊滅は、それだけ酷いものだったのだ。
だが、アイリンはにっこりと微笑んだ。
コナンが今、何を考えているのか…。
それは、急に強くなった手の震えで察しがついたのだ。
だからこそ、コナンにいらぬ心配をさせないよう、アイリンは微笑んだ。
「約束よコナン。それと、辛いことはもう1人で背負い込まないで。恐かったら手を握ってあげる。私で良かったら側にいてあげる。
大切な…貴方だから…」
最後の方は頬を赤らめて、だけどはっきりとコナンの瞳を見つめながらアイリンは言った。
そんなアイリンに、コナンの頬にも赤がさした。
「…僕も…」
ぽつりと言うコナン。
「え?」
はっきりと聞き取れなかったのか、アイリンはコナンに聞きなおす。
コナンも、今度ははっきりとした口調で言葉を紡いだ。
「僕もだよ。僕も、アイリンのことがずっと大切だった。勿論今も…そしてこれからも」
「コナン…」
コナンの言葉に、アイリンはコナンの両手から自分の両手を離すと、高鳴る鼓動を抑えるかのように自分の胸の上で両手を握った。
アイリンの両手が離れると、コナンは照れ隠しに右手で自分の右頬を軽く掻いた。
手の震えは、いつの間にか止まっていた。
コナンは1つ息をつくと、改めてアイリンを見つめながら言葉を紡いだ。
「この戦いが終わったら言おうと思ってたんだけど…。ま、いいか。
僕はアイリンが好きだよ。初めて会った時からずっと好きだった」
頬を赤らめながらも、はっきりとそう言うコナン。
アイリンも、同じように赤がさした頬で答えた。
だが、その瞳には寂しげな光が宿った。
「私もよ。でも、コナンに迷惑だったらどうしよう…って思うと、なかなか言い出せなかった。だって…」
最後まで言葉が紡げず、アイリンは俯いてしまった。
俯いた理由にすぐ気づいたコナンは、力強い瞳と微笑みでアイリンを見、そしてこう言った。
「ムーンブルク城のことを気にしてるんだったら心配しなくていいよ。僕はアイリンを1人の女性として好きだから。平和になったら必ず復興させよう!
僕も、ずっとアイリンの側にいる。約束するよ」
力強い声音に顔を上げると、そこにはやはり力強い微笑みで自分を見ているコナンがいた。
アイリンは、こぼれ落ちそうになる涙をこらえながら、涙声になりそうな声で答えた。
「コナン…。ありがとう…ありがとう…」
たった今、自分の心を伝えた少女のそんな表情を見ながら、コナンはやさしい微笑を浮かべた。
ふと、アイリンの後ろの宿屋を見ると、部屋の明かりがいくつか消えていた。
「さて、そろそろ宿に戻らないと。
またハーゴンが何かしかけてきたんじゃないかってラセルが心配する。
ああ見えて意外と神経細い所があるしね」
クスッと笑みをこぼしながら言うコナン。
それを見て、アイリンもクスクスと小さく笑った。
「そうね。戻りましょ」
2人はゆっくりと宿屋へと歩き出した。
その時、アイリンの表情が僅かに曇った。
ハーゴンが何かしかけて……。
先程のコナンの言葉が、頭に残り消えなかった。
…そう。半年程前にこのベラヌールで、コナンはハーゴンの呪いを受けて生死の境を彷徨った。
あの時は世界樹の葉でコナンを死の淵から連れ戻すことが出来たが…。
また、同じことが起こらないとも限らない。
アイリンは、すぐ横を歩くコナンをちらりと見、そして神に精霊に祈った。
(どうか…コナンをお守り下さい……)



それから数十日後、コナンはザオリクの契約に成功し、更に数日を得てアイリンも契約に成功した。
その時、コナンはただ1つ、アイリンに伝えなかったことがあった。
ザオリクを覚えると同時に身につけなければならなかったもう1つの呪文、
メガンテを…。
作品名:月明りの約束 作家名:星川水弥