あぁ。なんて滑稽で愛しい!!
そんな、戸惑ってるなんて、何なの。
「・・・馬鹿じゃないの・・・そんなの、放っておけば、いいのに・・・俺のこと、殺したいんでしょ?それくらい憎いなら、なんで、殺さないの・・・」
「・・・・・なんで、テメェはそんなに俺に殺されたいんだよ。」
ふっと、落とした声に、シズちゃんは静かな声で返す。あぁ、いつも怒声しか聞かなかったから分からなかったけど、落ち着いた低い響きを持っているこの声も、やっぱり好きだ、と思う。今視界に映るのは、シズちゃんでもなく、新羅が患者の部屋の一室としてあてがっている部屋でもなく、ぎゅっと握りしめた自分の手だけだ。
この手で、シズちゃんに様々な罠を仕掛けて、嵌めてきたのは、すべて一つの感情が根本だということは知っている。
「・・・・・・そうすれば・・・」
そうすれば、シズちゃんの、特別になれるでしょ・・・?
声になったのか、ならなかったのかすら分からない。ひきつる喉の奥でひっかかるような、声でしかなかったように思う。こんなの、俺らしくない。俺は、いつだって無敵で素敵な情報屋、折原臨也でないといけない。シズちゃんの息をのむ音にすら、消えてしまいたくなる。
なのに、どうだろう。この情けなさ。
「・・・なら、さっさと言えよ、馬鹿・・・」
再び感じたのは先ほどと同じ体温で、唯一違ってるのは、まわされた腕の力加減。しっかりと感じる温度はそれだけ強く抱きしめられているということで、その状況にどうしても頭の回転がついていかない。
「な、にそれ・・・」
「そんなこと、さっさと言っちまえばよかったんだよ。馬鹿ノミ蟲・・・」
そうすれば、俺もお前も苦しまなくて済んだのに。
聞こえるか、聞こえないかくらいの小さい声で、けれどもしっかりと耳元で呟かれた声は、憎しみも怒りもこもっていない、穏やかで安心を与えるような甘い響きで。
「いいか、よく聞け。臨也。」
好きだ。と囁かれた視界の端に、真っ赤になった首筋が見えた。
作品名:あぁ。なんて滑稽で愛しい!! 作家名:深山柊羽