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あぁ。なんて滑稽で愛しい!!

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「・・・・・なんで、さっきから泣いてるんだよ?」
 たっぷりの沈黙の後、出てきたのは、は?といういつもからは似つかわしくない間の抜けた声だけだった。何を言ってるんだろう。目の前のこの男は。泣いてる?泣いてるだって?誰が?状況的には、俺とシズちゃんしかいないから、俺の事だろう。うん、俺が泣いていると、言った。
 あり得ない、と心中で否定しようとして、困ったような、微妙そうなシズちゃんの顔に思わずふっと自分の頬へ手をやると、確かに濡れてる。これが汗だと言うのはあまりにも苦しい言い訳なのはいくら頭の回転が鈍っても一瞬で理解することができた。
 泣いてる。泣いてる?誰が?俺が。なんで?なんで泣いてる?どうして?
 あぁ、そうか・・・結局、俺はいまだにシズちゃんの特別になり損ねているからだ。だから、悔しい。悔しい。憎しみで持って殺されるほどまで、俺はシズちゃんの感情を占領することはできていないのだと、分かったからだ。
 愛されない。それなら、せめて憎まれて殺されてしまえばいい。そう願っていたのに、その絶好の機会すらも手放されてしまうほど、俺はシズちゃんの特別ではないということだから。
 悔しい。
 悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。
 何かを言おうとしても、さっきよりも喉の締め付けが苦しくなって息苦しくなり、口を開いては、何も言うことができずに結局閉じてしまう。何か言わなければ。
 でも、苦しい。視界が滲む。言葉が出ない。何を言ったらいいのか、分からない。ぎゅっと締め付けられる痛みが何なのかは分かっている。けれど、見ないふりをしなければ。この感情は、ないことにしなければ。
 恋慕などという感情は、邪魔でしかないから。
「・・・何してるの。」
「・・・・・知るかよ。馬鹿ノミ蟲。」
 何着も持っているというモノクロの服が、滲んだ視界にいつになくいっぱいに広がる。今これがどういう状況なのかなんて、きっと幼稚園児でも分かる簡単な事だ。
 気持ち悪い、と突き放さなければいけないとは思うけれども、加減してまわされた腕も、銘柄も知っているタバコのにおいも、手放したくはないと思ってしまう。
「なんで、泣いてんだよ?」
「っ!そんなの、シズちゃんに関係ないでしょっ!」
 その言葉に、どうにかどん、と胸に手を突いて離す。やはり力は入ってはいなくて、簡単に離れた体温が恋しく感じるのをどうにかごまかすように口端を意識的に持ち上げる。そうでもしていないと、やってられない。そうでもしてないと、崩れてしまう。
「っそうだけどよ!」
「なら、放っておけばいいじゃない。俺のことが嫌いなんでしょ?憎いんでしょ?」
「そうだけど!!」
 言ったシズちゃんは苛立たしげに自分の膝を殴るように手をつく。
「・・・・・なんでか知らねーけど!お前が死ぬかもって思った時、嫌だったんだよ。こっちに運んできて、やっと落ち着いて、一発殴ってやらねーと気がすまねーと思ってたけど。でも、そう思った途端、お前意識ないのに泣き始めるし!!なんかそれも落ち着かねーのに、起きたら起きたでいつも通りの事言いやがる癖に、泣きやまないし!!」
 ったく、なんだよ。と苛立たしさを隠さずに吐き捨てるのに、感情を爆発させて物を壊さない。シズちゃん自身も、自分の感情に戸惑っているようだ。