beloved person
帝人に抱きついたまま出た電話はメールで、、それを見た臨也は苦虫を噛み潰したかのような顔をし、そっと帝人から体を離し、そのまま床に座り込む。
臨也の雰囲気に心配になった帝人も起き上がり、メールの返事をする臨也をじっと見つめた。
「ごめん、帝人君・・・仕事入った。」
先ほどと打って変わって雰囲気が変わった臨也が、帝人の顔を見ずそう呟く。
「・・・大丈夫ですか?」
臨也の顔を覗き込んで、帝人が問いかけると、臨也は寂しそうに笑った。
「大丈夫だよ。
俺を誰だと思ってるの?
素敵で無敵な情報屋さんだよ。
帝人君に心配されるなんて、まだまだだなぁ、俺も。」
そう何時ものようにおどけて見せる臨也だが、顔が心から笑っていないのが見て取れた。
「無理しないでくださいね?」
覗き込んだまま帝人がそう言うと、臨也は少し嬉しそうに笑った。
「じゃあ、僕帰ります。」
そう言って立ち上がると、ソファにおいてあった肩掛けのバッグを持つと立ち上がる。
それに続いて、臨也も立ち上がると、そのまま帝人を抱きしめた。
「臨也さん?」
少し驚いた帝人は、そう問いかけるだけで、なすがままだった。
「最後の帝人君補給だよ。」
そう言って、臨也は抱きしめた腕の力を少し強めると、帝人はそれに笑って臨也の頭を撫でた。
「撫でるのは俺の役目なのにっ」
臨也はそういいつつ、帝人を離すと、少し頬を膨らませて帝人を撫で返す。
「なんですか、役目って。」
帝人はそう言って笑う。
「帝人君を撫でるのは俺の役目ってことだよ。」
笑いながら、臨也はそういうと、帝人も釣られて笑う。
「そのままじゃないですか。
もぉ、臨也さん、お仕事あるんですから、お仕事してください。
僕は帰ります。」
笑いながら、そう言うと、帝人はそのまま玄関へと向かう。
臨也もそれについていくように、玄関へ向かった。
「じゃあ、帰ります。」
帝人はドアを背に臨也にそう言うと、少し寂しそうに臨也が笑う。
「お仕事がんばってくださいね。」
そう言うと、帝人は背伸びをして、臨也の頬に口付ける。
突然の事に臨也は目を白黒させると、目の前の帝人の顔が少し赤いのに気づき、我に返る。
「ありがとう、帝人君。」
臨也はそう言うと、少しかがんで、帝人の唇に軽い口付けを落とす。
それに帝人はびっくりして、耳まで顔を赤くした。
「じ・・・じゃあ、帰ります。
また。」
帝人はドアを開けると、逃げるように臨也の部屋を後にした。
そして、エレベーターに乗り込むと、壁にもたれかかるようにして、今あった出来事を打ち消そうとしていた。
帝人が帰った後、パソコンの前に向かった臨也は、ふと、帝人とのことを思い出していた。
「・・・はぐらかされたかぁ。
まぁ、いいよね、デレてはくれたし。」
そう嬉しそうにパソコンのキーボードを叩き仕事を始めた。
マンションの一階につき、冷静を取り戻した帝人は自分の携帯を取り出すと、着信履歴から何処かへと電話をした。
呼び出し音が鳴り響く電話に耳を傾けながら、帝人の顔が強張る。
『帝人先輩?
どうしたんですか?』
電話の相手は、後輩の黒沼青葉だった。
「ああ、青葉くんにお願い事があってね」
そう言うと、帝人はマンションから外に出るとを外からマンションを見上げる。
『はい、なんでしょう?
先輩のいう事は何でも聞きますよ。』
電話の向こうで青葉が笑っているであろう想像は、安易につく。
「最近、池袋に出来たチームがあるの知ってる?」
電話口でそう問いかけつつも、帝人は見上げるのを止めない。
『ああ、うちにも、どこにも属せない奴らが群れつくってるアレですよね?』
笑っていた青葉の声が突如真剣じみたものになる。
「そう、ソレ・・・潰しておいて欲しいんだ。
今邪魔されたくないんだよね。」
溜息をつきながら、帝人は強張った顔のまま見上げていた顔を自分がきた道のりの方に向ける。
『ああ、確かに邪魔ですよね。
分かりました、潰しておきます。
今日の夜辺りにでも早速。
先輩はどうします?
来ますか?』
気まぐれで来ないときもある帝人にそう青葉は問いかける。
「いや、明日ちょっと呼び出されるかも知れないんだ。
傷作って逢ったら心配されるかも知れないから、青葉君たちだけでお願いしてもいいかな?」
真剣なまなざしのまま、帝人は少し笑いながらそう言う。
『分かりました。
終わり次第連絡しますね。
では、明日また。』
そう言うと、電話が切れると、帝人は溜息をついて新宿駅のほうに歩き出す。
【そう、困るんだよね。
臨也さんも静雄さんも傷つけてもらっちゃ。
無粋な真似はさせたくないんだよなぁ。
臨也さんを僕がらみで脅して、更に静雄さんまで狙おうなんて・・・、ほんと無粋だよ】
そう思いながら、帝人は岐路に着く。
臨也の家でチラ見したメールの内容が、ここ最近の臨也の心労の原因だったのにもムカついていた。
【ヤクザと繋がってる奴らは、これだからほんと、たちが悪いよ・・・。
でも、これから楽しみだな。
こんな非日常はないし。
静雄さんも臨也さんも愛してるって言ったら、あの二人はどんな顔するんだろう。】
そう思いつつ、帝人は笑った。
END
作品名:beloved person 作家名:狐崎 樹音