かえるの王様
物語のその後を、もう少しだけ。
「・・・いつまでそんなことを続ける気だ?」
スイスに呆れたように言われても、リヒテンシュタインは「あら、約束は約束ですわ。」と澄ました顔で答えました。どうやらドイツを『弟』と位置づけたらしく、約束とは言いながら、リヒテンシュタインはあれこれと世話をやきたくて仕方ないのでした。
ドイツも、恥ずかしそうな困ったような素振りをしながらも、素直にリヒテンシュタインの世話を受けていました。
「どうして駄目なんですか?」
「だ、だめなものはだめだ!」
けれども一点だけ、どうしても守れない約束がありました。
一緒のベッドで眠ることだけは、ドイツが断固として拒否していたのでした。
「だから、どうして駄目なのかと聞いております。」
「そ、それはだな。と、年頃の男女が、い、いいいっしょに眠るなどその非常識というか・・」
「あら、家族ですもの。おかしくありませんわ。」
「だからそれはっ!・・・笑うなスイスッ!」
必死に笑いをこらえるスイスに、ドイツは怒りながらも、助けを求めるような眼差しをむけてきました。
リヒテンシュタインも、同じような眼差しでスイスを見つめました。
「そろそろ観念したらどうだ。」
可愛い妹のお願いに、スイスが同調するようなことを言いました。
きらきらと瞳が輝いたリヒテンシュタインとは対照的に、ドイツは焦ったように言いました。
「なっ?!無責任なことを言うなっ!」
「無責任?もともとは、貴様が言いだしたことだろうが。」
貴様こそ言葉には責任をもて、とスイスはわざと冷たくドイツに言いました。かえるの頃にあんなに不遜だった己を思い出せ、と付け足しました。
いつも最後にはこの事を持ち出され、ドイツは言葉に詰まってしまうのでした。
「と、とにかく、俺は一人で寝る!以上!」
それだけ言うと、あたふたしながら自分の寝室へと逃げ込んでしまいました。
大きな男のあまりの慌てぶりに、スイスとリヒテンシュタインは、顔をあわせると、くすりと微笑みました。
そしてリヒテンシュタインも、おやすみなさいまし、と寝室へともどっていきました。
「あれもとことん鈍いな。」
ため息をつくように、スイスは言いました。
ドイツがリヒテンシュタインに寄せる想いを、スイスは知っていました。
かえるだった頃から、ドイツはリヒテンシュタインのことを愛していたのでした。
そしてスイスの勘によれば、妹もドイツのことを異性として好ましく感じているようでした。
想いあっていればこそ、2人の関係は自然と少しずつ変化していくだろう、とスイスは確信していました。
そしてまた、新しい家族になるのだと。
「物語は、ハッピーエンドで終わらせるべきである。」
スイスはその日がくることを、密かに楽しみにしているのでした。