最悪だよ最低だよ責任取れよ!
「気づかない方が悪いんでしょう。それに、僕って結構わかりやすい性格してると思うんですけどねぇ」
「だ、だって、君、一度もそんな素振りなかったじゃん!」
「恋愛経験値ゼロのあなたに悟られるような真似はしませんよ」
「卑怯だ!」
「卑怯で結構。それより早く食べないとカレー冷めちゃいますよ?」
彼のカレーはあと半分ほど残っている。僕が告白の言葉を口にしたときから、全く減っていない。食べるより僕としゃべる方を優先させているせいだ。まずは食べ終わってから話せばいいのに。本当にこの人、よく分からない人だ。 と実感した。(そんなところが気に入っているのだけど)
僕の分のカレーはとっくに食べ終わっていて、片付けのため席を立とうとしたら「まだ話は終わってないんだから大人しく座っててよ」と妙に凄みのある声で威圧された。
話なら早く終わらせて欲しい。洗い物が待ってる。
「……ねぇ。何で、今まで俺を好きだってこと隠してたの?」
「隠すつもりはあんまりなかったんですけどね。でも、僕があなたに惚れてるなんて知ったら、あなた絶対に馬鹿にするでしょう?っていうか実際しましたよね、つい30分くらい前に。性欲とかと恋を誤認してるって言われたことは忘れませんよ。ああやって馬鹿にされるのが面倒だったから、だから黙ってただけです」
「じゃあ、何で今になって、好きって言ってくれたの?」
「さあ。何となくじゃないですかね。何かもう好きだってことを隠すのも面倒だし、疲れたし、どーでもよくなってきたんですよ。っていうか、片思いを続けるのも面倒になってきたし、疲れたし、どーでもよくなってきたので、そろそろこの恋は終わりにしようかなーって思っ」
「ダメ!やめちゃダメ終わりにしちゃダメ!」
不毛な恋の終わりを宣言しようとしたのに、当の片思い相手から拒否を食らった。
随分と子どもっぽい引き止め方だなぁと、他人事のように思っていたら、いきなり彼が近づいてきて、首の周りに抱きつかれた。やっぱり子どもみたいだ。
いやいやと首を振って相手に訴えかけるなんて、どう見ても子どもだ。駄々を捏ねる子ども。(普段の怜悧で狡猾な情報屋としての彼とギャップがあって、それもまたいいのだけど)
しかし、彼の物事すべてに貪欲なところは変わらなかった。(つまり、元から子どもっぽかったともいう)
「絶対ダメ、ダメダメ、許さないから、俺の初恋を弄んだ罪は重いんだから、――――だから、責任取れよ!責任取って、俺と付き合ってくださいお願いします俺も帝人君のことがずっと好きでしたっ」
「………え。……………面倒そう」
僕の返事は、この一言に尽きる。
しかし好きな人には誠実に、素直に正直に気持ちを包み隠さず告げたというのに、途端に臨也は泣きそうな顔をした。潤んだ赤い目は光を反射して、綺麗で、少しだけ見惚れた。
(いや、だって。別に、臨也さんのことは好きだけど、付き合いたいわけじゃないし。手繋いだり、キスしたり、そういうのは面白そうだからやってみたいけど、別に恋人にならなくっても構わないし。どーでもいいし)
またしても僕の回答がお気に召さなかったらしい彼は、またもや夜分にも関わらず喚き出した。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、帝人君のバカバカバカ馬鹿馬鹿馬鹿ばかばかばかっ!!!君みたいな若い子が何に対しても無気力で何事も面倒臭がってばっかりだから『これだからゆとりは……』って言われるんだよっもっと意欲的に生きろよもっと積極的になって、それで、もっと俺を好きになればいいんだだから俺と付き合え」
「……さっきから支離滅裂っていうか、脈絡がなさ過ぎますよ?」
「うっさいな。緊張してんだから、当たり前だろ」
拗ねて不貞腐れたらしい臨也は何を思ったのか、ぎゅうぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。
抱きしめるというか、抱き潰すというか、とにかく力加減がなっていなかった。「俺と付き合うって言ってくれるまで、離してあげないよ」と耳の後ろから囁かれる。ぞくりと、背筋が震えるほど良い声だった。
そんなに密着されると、暑い。
今を何月だと思っているんだ。
暑い。
うっとうしいな、もう。
暑い。暑すぎる。
「わーかーりーまーしーたー!付き合います、付き合いますから、離れて下さい臨也さん」
「本当?本当の本当に本当?嘘吐いたら、」
「分かってます嘘なんて吐きません、だから僕と付き合ってくださいそして離れて下さい臨也さん!」
「しょうがないな帝人君は勿論いいよ!」
喜色の込められた声色ではしゃぐ臨也の腕を抜けだして、キッチンへ逃げこむ。
洗い物、しよう。
そしてちょっと涼もう。
彼の所為で心臓は不整脈起こしたみたいに正常に機能してくれないし、耳の奥では幻聴みたいにまだ彼の声が響いているし、顔面は鏡を見なくても自覚できるほど火照っている。
ああもう、暑い。
熱くていやになっちゃうよ。 ( せ き に ん と れ ! )
作品名:最悪だよ最低だよ責任取れよ! 作家名:honoka