神様の我儘。
「だって俺には……似つかわしく、ないから」
「綺麗なのに」
指を這わせながら耳元で囁いてやれば、拒絶するように首を左右に振った。
「ッ……あ、あまり、そこ、触らな……」
吐息交じりの声。びくびくと小刻みに身体を震わせる様が可愛くて、ギルベルトは笑みを浮かべながら執拗にそこを攻め立てた。
制御しきれなくなったのか、いつの間にか翼が背中に現れていた。光を透かし淡く虹色に輝く美しい羽根、その根元を撫でながらギルベルトは聞き取れない程の小さな声で呟いた。
「ごめんな」
ルートヴィッヒは真面目だから、淡々と与えられた任務をこなしている。けれど優しいから、いつだって心を痛めているのは知っている。そしてその役目を強いているのは自分なのだ。
解放してやる方法はある。簡単な事だ、転生させてやればいい。ここで得た知識・記憶、全てを失い、新たな生を歩む。それが彼にとって一番幸せなのだろう。しかし、この方法は今やリスクが伴う。
(神と直接交わり、神に近しい存在と成った者、か)
ルートヴィッヒは知らないが、こうして交わる事で段々と存在がギルベルトと近くなっている。力を持ちすぎてしまった為に、力や記憶を残したまま転生してしまう可能性が出てしまったのだ。絶対とは言い切れないが、賭けに出るのも躊躇われる。
もう一つの選択肢は、ギルベルトが自分の席を譲り渡す事。だがそれは傍に居られなくなる道だ。彼を一人にしてしまうという事でもある。余計に辛い想いをさせるのではないか、そう思うと、どちらにも踏み切れなかった。
(いや、結局俺は、こいつを手放したくないだけだ)
神だって万能ではない。魂の行く先を決める事が出来る、それが自分に与えられた力で、それ以外に何が出来るわけではない。奇跡など、そう簡単には起こせない。神などと呼ばれてもその程度の、ちっぽけな存在だと思う。
自分の我儘で縛りつけているのだとは分かっていても、彼には一目逢った時に惹かれていたのだ。そして自分には、手に入れるだけの力はあった。
「……」
ふと顔を上げると、青い瞳が心配そうに見つめていた。ギルベルトはなんでもない、という風に微笑んで、腕の中の存在を強く抱き締めた。
本当に良かったのかと、何度迷ったか知れない。この先もきっと迷い続けるのだろう、それでも傍に居たいと望んでしまう。
ちっぽけな神の我儘を、天使が許してくれる限り。