それが「恋」だと、
プロローグ
振り返ってみれば、本当に可愛げのない子供だった。
外見を利用することも覚えていた。
騙される大人を哂うことが楽しかった。つまり臨也は、昔から臨也でしかなかった。
人間が好きだった。愚かで、浅はかで、脆い。そんな人間たちが思うように動くことがただ、純粋に、面白かった。特別はなく、例外もなく、人間のすべてを愛していた。
あの日までは。
今もそう変わってはいない。臨也は昔から臨也という個性を確立していて、その、7歳の夏ごろには既に臨也そのものだった。つまりは外面ばかり良くて、性格は心のそこから歪んでいた。そうして臨也自身、自分が歪んでいることに気づいていた。そして、気づいた時点ですでに手遅れだったのだから、それはご愁傷様としか言いようがない。
人間と言う種への無限の愛は、裏を返せば、個人への圧倒的な無関心と同じこと。それが分かっていて、心底どうでもいいと思っていたそのころ、臨也は祖父の書斎でそれに会った。
それは、美しかった。
背後からの窓の光を受けて、輝く水のその中で漂う「首」は、柔らかな微笑を浮かべているような気がした。グロテスクとも悪趣味とも思わなかった。ただ、ただ、美しかった。
運命の歯車がかちりとはまる音が、心に響いた気さえした。臨也はそれを運命だと、疑いもなく信じた。恋に落ちたと知ったのは後のことで、その時はただ、胸の高鳴りに任せて「首」に手を伸ばすことしかできなかった。
迷うこと無く決めていた。
これは俺のものにするべきなのだと。
この「首」は俺のものだと。
人生で初めて盗みを働いた。
7歳の夏だ、今も覚えている。
そうして「首」は臨也の「恋」になった。