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それが「恋」だと、

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第一話 / それが運命なんだから





「ダラーズ、ねえ」


その噂を聞いたのはまだ肌寒い春先のことだった。
ネット上に存在するカラーギャング。面白いと思って潜入してみれば、どうやら実態はないらしい。ネット上だけに存在するカラーギャングなんて不自由なものを、よく作る気になったものだなと、その時はその程度の認識しかしていなかった。
けれども、手駒として面白いものは面白い。臨也にとって好奇心を満たす情報というのは、人生に二番目に大切なものだったので、早速リサーチを開始した。
ダラーズにはリーダーがいない。代表がいないとなれば、誰がこれを作ったのか。
考えるまでもなく、探れる場所は一つだった。公式サイトの管理人しかないだろう。
相手も結構ネット上のことには精通しているようだったが、臨也の方が当然のようにその上を行く。いくつかの情報を拾い上げて、リストアップされた名前の主は、まだ中学生の少年だったことには少し驚いたけれど。
けれどもその程度。
竜ヶ峰帝人というその名前と、経歴を手にしたあたりですでに臨也は飽きていた。何しろ相手は遠く埼玉でパソコンの前に座っているだけの存在だ。池袋というこの舞台に引きずりだす事ができるかどうかもわからない。どうせこれからダラーズがどこへ向かおうと、彼は向こうにいることしかできないはずだ。
ならば彼についてこれ以上調べるのは無駄ではないのか?臨也はそう判断して、それ以上の情報収集をやめることにした。遠く埼玉の創始者を舞台に引きずりだすような面倒な真似をしなくても、今現状の池袋に「在る」ダラーズの虚構を使ったほうが、遥かに遊べる。そのためには、パスワードをばらまいて構成員を増やして、そして、そうだ、管理人の地位も乗っ取ってしまったら楽しいかも知れない。
薄笑いを浮かべながら、臨也はその準備を始めた。
そしてその前に一応、と、何かのついでのように「彼」の顔写真を入手して・・・息を、飲んだ。


「・・・え、」


そこに、いたのは。
「首」だった。


「・・・嘘」


こんなふうに驚愕することなど、臨也にはめったになかった。それでもこればかりは驚くなという方が無理な話だ。写真の中でつまらなさそうに空をみあげている学ラン姿の少年の姿と、デスクの上で光を受けて輝く水の中に漂う「首」を、何度も何度も見比べる。
表情はあまりに違っているけれど、その短く切りそろえられた髪といい、頬のライン、鼻筋、眉の形まで、そのすべてが恐ろしい精密度で「首」と重なる。
臨也は水の中から「首」を取り出してそれを掲げ、もう一度写真と見比べてから呆然と、「みかど、くん?」とつぶやいた。「首」の柔らかな表情が、窓からの光に照らされて微笑んだような気がして、臨也はどきりと大きく跳ねた心臓をそっと押さえる。
「帝人君・・・」
呼びかける「首」は、返事をしない。それどころか、唇を開いたこともない。けれども臨也は一度だけ、ただ一度だけ、彼の瞳が開いた瞬間を見たことがある。その、水面のような美しい青の瞳は、色は違えども、写真の中の彼と、やはり記憶の中で一致している。
「・・・帝人君、なんだね?」
臨也はなんどか繰り返しそう読んで、確かめるように「首」の頬を撫でた。柔らかな皮膚が手のひらに吸いついて、そのなめらかな手触りにぞくぞくと臨也の背筋が震える。ああ、愛しいなんていう感情は、本当にこの瞬間しか味わえない。


「そうか、帝人君かあ!」


大きく叫び、首を抱きしめてうれしそうに笑った臨也は、そっかそっか、と楽しそうに呟いて、もう一度写真を見る。夢にまで見た、首から下も存在する臨也の「恋」。
埼玉在住。そうか、それならやっぱり池袋に招待しなければならない。情報をもっと集めて、集めて、利用して、彼をおびき出さなくては。だって彼は臨也の運命なのだから、会うのが当然だ。そのためになら手段を選んではいけない。
酷く優しい手つきで、臨也は「首」の頬を包むようにして持ち上げると、わざとらしいほどの音を立ててその唇にキスをした。そんなことをしても、「首」は反応をしないけれど、彼ならどうだろう。
彼ならもしかして、面白いほど頬を染めてくれるのではないか?あわてふためいてくれるのではないか?
この体温のない「首」とは違って、その頬も、唇にも、暖かな音頭が宿っているに違いないし。
なにより体が在るなら抱きしめられる。
声も聞きたい、名前を呼んでもらいたい。臨也が呼んだら、それに返事を返してもらいたい。
「竜ヶ峰帝人」は「折原臨也」を一切知らないだろうから、とびきり優しくしてやろう。そうして心を許してくれたら、ちゃんと説明をして、一から十まで教え込んであげるのだ、いかに自分たちが運命に固く結ばれているかということを。きっと彼だって、すぐに理解してくれるはずだ。だって彼は臨也の運命の相手なのだから。


「楽しみだなあ、楽しみだなあ楽しみだなあ!」



臨也は「首」と一緒にくるくるとイスの上で回る。
その笑顔は、いつもの悪巧みに歪んだ笑顔ではなくて、まるでただの無邪気な子供のような、屈託の無いものだった。おそらく、家族以外の誰にも見せたことのないであろう、いや、家族にもきっとめったに見せることがないだろうその顔を、臨也は「首」の前でだけ見せる。
どきどきと胸が脈打つ。隠しきれ無いその興奮に、臨也は何度も何度も「首」にキスを捧げながら、うっとりと目を細めた。
あまり考えたくない話だが、例えばそう、万が一運命を拒絶されたって、その時はこの家に閉じ込めて分からせてあげればいい話だ。きっとすぐに臨也の言うことを信じる様になるだろう。なんなら体に教え込んでやってもいい。そうすることで彼が理解するというのならば。
ああでも、と臨也はくすぐったい気持ちで気持ちを改める。
この子は俺の特別なのだから、唯一無二なのだから、やっぱりできるだけ優しくしてあげよう。彼が泣くのはいやだ、だって大切な子なんだから。
優しく優しく、大切に大切に扱って。
そうして臨也を受け入れさせればいい話だ。大丈夫、時間をかければきっとうまく行く。彼にはそれだけの価値がある。



「やっと、会えるねえ。俺の「恋」!」



さあ、愛しあおうよ。
だってそれが二人の運命なのだから。

作品名:それが「恋」だと、 作家名:夏野