夏空
「……おい」
「……」
「……行くぞ、あいつらが待ってる」
サンジは足を動かしも顔を上げもしなかったけれど、ゾロにはなんとなくそれがわかっていたので、無言で右手を突き出した。パーで。ん、と、吉田君の背中をついぞ追いかけることのなかった手を伸ばした。けれどその手は握り返されず、それもなんとなくわかっていたので、次は、サンジの手に直接触れる。それは硬く握り締められている。意固地に。頑なに。けれど視線は、怯えながら。
ゾロの胸のうちにあるのは明確な後悔だったけれど、サンジのその視線だけが、救いなのだった。
指先に触れるサンジの手は、夏の熱気とはまた別の意味で熱く、それは焼付くようで、火傷するようで、乾いていて、鮮烈だ。
ゆっくりと、まるでほぐれるようにしてサンジが掌を開いていった。いつかテレビで見た、朝顔の蕾が開く様のようだった。はじめは、人差し指を。次に、中指、薬指。そして、手を握る。ゾロも握り返す。2人とも、手は汗でねっとりと湿っていた。馬鹿げていた。入道雲の下で、そんなことをするのは。けれどゾロはこうする以外にないと思っていたし、きっと、それは正しい。
「考えたら、20分も歩いたら、アイスなんて溶けちまうと、思わねえか」
「……うん」
「俺たちは、食っちまおう。買ったらすぐに」
「……うん」
「あいつらには、内緒で」
「……うん」
ふと、爺さんは空を見上げていたのではなく、遠い夏の日を思い出していたのではないかと、そんな気がした。