地獄へ堕ちろと罵る君に手を引かれて、僕は天国の存在を知る
当のアメリカはというと、今度はシーツにもぐりこむなり、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
執務室から、同建物内の仮眠室へなだれ込んで三ラウンド。
狭い一人用のベッドで、シーツを汚さないよう細心の注意を払ってセックスした。
仕事中でもゴムを持っていたことにアメリカは驚いていたようだが、コンドームを持ち歩くのは紳士の嗜みだろう。
久しぶりに会った二人が抱き合うのに理由なんていらない。それに関してはアメリカも不満などなかったはずだ。
口うるさいアメリカのことだ。気乗りしない時は、断固拒否される。
今日は機嫌もよかったし、積極的ですらあったから、アメリカも乗り気だったはずなのだ。それは間違いない。
だがしかし解せないことに、アメリカはここに至ってどうやらつむじを曲げてしまっているらしい。
久しぶりに会って、キスして、抱き合って、そしてなぜ拗ねられなければならない。
「なあ、可愛いアメリカ。そんなに煙草が気に入らないのか? とにかくこっちを向いてくれ、ダーリン」
応えはない。
アメリカの流線上の首から肩、背中のラインはとても好きだ。肉厚な背中にある、天使の名残をそっと指先でなぞる。
肩甲骨なんて無粋な名前はふさわしくない。アメリカの背にあってはもっと神聖で愛らしく素晴らしいもののようにすら思える。
「アメリカ」
「・・・・・・・・・・・・ねえ、君。会うなりこれかい? 別にムードとか、女の子じゃあるまいし煩く言うつもりはないけど、さすがにどうかと思うよ。これじゃまるで君に買われた娼婦だ。俺は君に抱かれるためだけに来たわけじゃないよ」
「悪い、そんなつもりじゃなかった。俺はただお前が可愛くて・・・・」
「うん、知ってる」
短く返された「I know」に、ちいさく安堵する。
「君が俺を愛していることは知っている。だからこれは、俺一人の感傷でしかないんだ」
アメリカはこちらを向いてくれなかった。
誰よりも明朗快活で、ヒーロー志向の強い馬鹿な子を淫靡な関係に引きずり込んだのはイギリスだ。アメリカにそう言って詫びれば、きっと彼は怒りだすだろう。
「俺はほかの誰でもない自分自身の自由意志で君を選んだんだ」
そう言って怒るに違いない。
だからイギリスは謝ることも許しを請うこともできない。
イギリスのそれを、アメリカは求めてはいない。
だからこれはただの「感傷」。誰よりも男らしくありたい彼のジレンマ。
「・・・お前はもう少し汚れちまえ」
後ろから抱きしめると、これまた可愛い返事が返ってきた。
「やなこった! 汚れた大人になんかなりたくないね」
「フン、ピーターパンめ」
「なんとでも言いなよ。俺は絶対に汚れた大人になんかならない」
大人が必ずしも汚れているわけではないと言おうとして、だが周辺の国家たちを鑑みるに彼らは参考にならないと気付いた。
あいつら、いつかつぶす。
自身のことなど棚上げして、イギリスは心に決める。手始めはあのにやけた隣国からだ。
「・・・ねえ、イギリス。そうだろ」
もぞ、と寝がえりをうって、アメリカはイギリスと向かい合った。
レンズを通さない、柔らかな瞳がイギリスを見つめる。
青く透き通った瞳は昔出会ったころのそれとまったく変わらず、そしてアメリカ自身は今も変わらずイギリスの、
「だって俺は世界のヒーローである前に、君の天使だもの」
今も変わらずイギリスの穢れを知らぬ天使だった。
「さしあたり、哀れな性持つ男を天国へ連れてってくれるか、マイダーリン」
シーツに波をぬって手を伸ばす。大きめの尻を撫で、まだやわい割れ目へ指先を忍ばせるとぴしゃりと叩かれた。
「ハハハ、なんだいこの手は!?」
「Go to hell!!!!!!」
作品名:地獄へ堕ちろと罵る君に手を引かれて、僕は天国の存在を知る 作家名:あさめしのり