雨の日には蒼天を連れて
あまりのしつこさに根負けして、顔を少しだけ出す。あまり抵抗すると、今度は力技に出られかねないからだ。アメリカの馬鹿力を以てすれば、イギリスを毛布から引きずり出すことはおろか、窓の外に放り投げるところまで五秒とかからないだろう。貧弱な自分に比べ、大きくなったアメリカの手にかかれば、イギリスなど赤子の手をひねるように伸されてしまうだろう。
やわらかく肌になじんだ毛布から出るのは、真冬の朝ベッドから出ること以上の労力を要した。自分の体温であたたまった、自分のにおいのする湿っぽい毛布から、それでもせめてもの抵抗に目元だけを薄く外気にさらす。
「イギリス、上を向いてごらん」
イギリスがしょぼしょぼする目をひとしきりしばたたかせ、落ち着いたところを見計らってアメリカはイギリスの肩に腕を回し引き寄せた。
「あっ」
アメリカに捉えられ、彼と視線を同じくした先には青空があった。ところどころ白い雲の散った、真っ青な空だ。円形に切り取られ、傘の布地に編み込まれた蒼天が、そこに広がっていた。
「これで雨が降っても、もう大丈夫だろ?」
アメリカがイギリスの肩を抱いて、もう片方の手で持っているのは、内側に青空がプリントされた雨傘だった。外は何の変哲もない灰色の傘だが、ひとたび雨が降れば持ち主の頭上にだけ青空が現れる。
「ね? これならおっきいから二人一緒に入れるんだぞ」
にっこりと破顔してみせるアメリカの顔があまりに得意げで、とっておきの宝物を見せた子どもみたいだったから、イギリスは目頭が熱くなるのを我慢できずに熱い滴をひとつこぼした。
「・・・ばか」
イギリスは、ぽたりぽたりと大粒の雨を降らせた。イギリスの空から落ちて、頬を伝って毛布にしみこんでいった。
今度は冷たい雨でなかった。地面に落ちて消えていく、冷たく悲しい滴ではなかった。胸の奥から沸き出すような、あったかくていてもたってもいられなくなるような、そのくせひどく苦しい感じが胸をいっぱいにした。
窓の外は、まだ降りやまない雨が地面を濡らしている。
どんより空が曇っていてもいい。傘からはみ出した肩が濡れてもいい。
なんだかとても、アメリカと一緒に歩きたくなってしまった。
作品名:雨の日には蒼天を連れて 作家名:あさめしのり