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あさめしのり
あさめしのり
novelistID. 4367
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I Love Booooo!

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I Love Booooo!



 アーサーにはペットがいます。賢くて、白と黒の斑模様がとってもキュート。おまけに耳はぴんとして、おしりをふりふり歩く姿がかわいいミニブタです。
 おや? ブタと聞いて、彼のことをばかにしたあなた、ちょっと耳をかっぽじってよくお聞きください。ブーブー鳴いて、餌をむさぼり食うだけの生き物のように思われることはいかにも心外です。ブタは、この世でもっとも古く人の歴史に関わってきたすばらしい生き物なのです。ブタは、かのキリストが生まれるはるか以前から現代に至るまで人に飼われてきました。食用にするため? もちろんそれも事実です。ですが、ブタの本領はそれだけではありません。ブタ小屋をどこに作るかご存じでしょうか。お食事中のお嬢さん方には、ちと失礼、なんとトイレの下なのです。ブタは、人の排泄物を食べ、そして最後には我々人類の胃袋に消えていくという究極のサイクルを具現した生き物なのです。これだけでもブタのすばらしさがおわかりいただけるでしょう。まだ足りないと? ならばもうひとつご紹介しましょう。ブタは、姿形こそのったりもったりしていますが、その実泳ぎが得意なのです。猪八戒だって、孫悟空に代わって水中戦はお手のものでしょう? おまけに清潔好きで、そんじょそこらの飼い犬なんかよりずっときれいです。しかも一度にたくさん子どもを産むことから、ブタは多産多福のシンボルとされてきました。子宝を象徴する、おめでたい動物なのです。ブタのあるところに人があり、人のあるところにブタがあるわけです。人の歴史はブタと共に築かれたと言っても過言ではないのです。
 ここまで言えば、もうおわかりいただけたでしょう。ぷりっとしたおしり、つんととがった鼻先、つぶらな瞳のミニブタが、いかに誇り高く優れた生き物の流れを汲むペットであるかということが。
「おーい、ブタフレッド。メシだぞ」
 アーサーが呼ぶと、ブタフレッドはとことこと歩み寄り、アーサーが床に置いたブタフレッド専用の皿に鼻先を寄せました。ふんふん、とにおいを嗅いで、ブタフレッドはがつがつと食べ始めました。今日の晩ご飯は、キャベツや人参や茹でたジャガイモ、それからミニブタ用の餌を少々でした。
「おー、うまいか」
 一心に餌を食べるブタフレッドを見ながら、飼い主のアーサーも食事です。食卓にはカレーと、キャベツと人参のココットが用意されています。おや、今日はブタフレッドは主人のご相伴に預かったようですね。ブタフレッドの食生活は、ミニブタ用の餌をメインに、ミニブタが食べてもさしつかえない野菜を与えられるのです。
 ほんとうはもっとジャンキーなものを出してくれても構わないんだぞ。
 ブタフレッドは事あるごとにアーサーの炒め物や揚げ物をねだるのですが、彼は決まって寿命が縮むからだめだと言って時々しかくれないのでした。優秀すぎる飼い主も、ペットからすれば考え物です。
 ひとりと一匹はテレビのニュースの音だけをバックに、黙々とたいらげました。アーサーは腹がくちくなると、毎日ブタフレッドを連れてお風呂に入ります。
「ブタフレッド、」
 びくりとブタフレッドの肩が震えます。肩なんてないじゃないか、なんてナンセンスなことは言わないでください。なだらかですが、まあ人間で言う肩に類するところはあるのですから。イメージの問題です。
 ブタフレッドは脱兎の如く駆け出しました。そこをアーサーがすかさず鷲掴みします。
「風呂だっつってんだろーが! いい加減あきらめろ、このブタ野郎!」
 先ほど、ブタは清潔好きで水もお手のものだと言いましたが、ブタフレッドはその限りではないようです。イヤイヤをするブタフレッドをアーサーは小脇に抱えて、自身が洗面所で服を脱ぐ間は足で踏みつけて、風呂場に連れ込みました。
「ブヒー! ブヒヒー!」
「何言ってんのかわかんねえよ。言いたいことがあるなら、人間の言葉で言ってみろ」
 いかにブタフレッドが聡明でも所詮はブタですから、人の言葉が話せるはずがありません。なのにアーサーは、ブタフレッドが抵抗するといつもこんな意地悪を言うのでした。ブタフレッドも人の言葉こそ話せないものの、アーサーに何かばかにされているらしいということは理解できます。意地悪を言われると、決まって「ブブヒー!」と怒りの声を上げるのでした。
 アーサーはいやがるブタフレッドにシャワーをぶっかけ、シャンプーをもみこみました。白い泡がぶくぶく立ち始める頃にはブタフレッドも観念して、アーサーの手にされるがままです。
「気持ちいいか、ブタフレッド」
 不服そうな声がブヒ・・・と漏れます。
 ブタフレッドは、お風呂が好きではありませんでしたが、アーサーがこうしてまるい指先で体中をきれいにしてくれるのは嫌いではありませんでした。ブタフレッドがこうして毎日負けてやるのは、アーサーがブタフレッドを愛していることを知っていたからです。嫌いなブタを飼いますか? どうでもいいブタに餌をやり、毎日お風呂に入れてやりますか? ブタフレッドはミニブタでしたがとても聡明でしたから、ちっちゃなおつむでアーサーが憎まれ口を叩いてもどれほど自分を大事にしているかわかっていました。
「ちょっと待ってろな」
 ブタフレッドを洗い終えると、アーサーはブタフレッドを浅く張った湯船に浸けて自身の髪や体を洗います。浅くお湯を張っているのは、アーサーを待つ間ブタフレッドが寒くないように、でもおぼれないように浅く、というアーサーなりの気遣いなのでした。
 ひとりと一匹は、風呂からあがると一杯やります。アーサーはビール、ブタフレッドはミルクです。
「かーっ! うまいなあ!」
 歳の割にいささかおっさんくさい声を聞きながら、ブタフレッドは冷えたミルクをごくごく飲みました。ひとりと一匹の間で、風呂上がりはこれと決まっているのでした。
「おいおい、口の周り汚すなって。また風呂入るか?」
 ぶるぶる短い首を振ります。アーサーは、けたけたと笑って、それから決まって口の周りを白くしたブタフレッドをタオルでやさしく拭いてくれるのでした。


 ブタフレッドは、アーサーの家に来る以前は野良豚でした。人に飼われるために改良されたミニブタが野生化することなど、普通ならありえません。ブタフレッドは野生化する以前、人に飼われていたのです。けれど、ブタフレッドは捨てられました。いったいどんな理由があったのかはわかりません。ただ、確かなことは、前の主人がブタフレッドを置いていってしまったということだけでした。主人に捨てられようと、天涯孤独の身になろうと、ブタフレッドは生きていますし、こうして生きている以上たくましく生きていかねばなりません。
 ブタフレッドはゴミを漁り、時に他人様の軒先を借りて生き延びました。ブタフレッドの自慢の毛並みはすっかりずず黒くなり、生ゴミの臭いをまとうようになりましたが、生きていくことで必死のブタフレッドにそんな身なりを気にかけている余裕などありません。最初は薄汚い自分自身の体臭が気になったものですが、それもじきに慣れました。アーサーと出会ったのは、ゴミ集積場のカラスたちとも馴染んで野良生活がすっかり板についた頃のことでした。
作品名:I Love Booooo! 作家名:あさめしのり