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夜明けを待つ隣にきみ

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どうしてだ、と、青峰君が言った。お前らしくもないと鼻を鳴らす。昔のかれとはあんまりにもかけ離れていてボクはすこし悲しくなった。すべてにおいて青峰君は変わってしまったんだと思う。隣に立てる存在が居なくなったあのときから、かれの目には自分しか見えていなかった。

「あんな淡い光を選ぶなんて、どうかしてんじゃねえの」

じりじりと焦げ付く夏の太陽がボクの首の後ろを焼く。よく日にやけた青峰君は炎天下だっていうのに少しも暑そうな素振りをみせなかった。

「火神くんは、きみとは違います」

ちょっとした悩みごとがあったのでボクは部活のない今日の休日をマジバでバニラシェイキを飲みながら人間観察なんてして過ごしていたんだけど、太陽の光が真っ盛りの昼過ぎに店に入ってきた青峰君に目ざとく見つけられて今に至る。連れ出された外はボクがマジバに入ったときよりだいぶ暑くて早くもバテ気味だった。
相変わらずだなあ、と、思う。言葉の選び方が不器用で、かなしいくらいに真っ直ぐで、そして笑うのがとても下手になったかれはボクが最後にかれを見たときから全くもって変わらなかった。

昔はこんなこと無かったんだけどなあ、と思う。もっとひとのことを見れるひとだった。ボクはかれの影でいるのが好きだったし、かれのするバスケが好きだったんだけど。

「ハッ。あんなのとするバスケで俺に勝てるとでも思ってるのか?」

連れて行かれた先はフリーのコートだった。どうやら青峰君はバスケをするらしい。なんだかんだいってかれはバスケを憎み切れないんだろうと思う。好きで好きで好きでたまらなくって、それでもそこに楽しさがないから辛いんだろう。
カバンにいれていたらしいかれのボールがそこから取り出されて、コンクリートにだむだむとボールが跳ねる。バッシュも履いていないのにかれのダンクは綺麗に決まって、ボクはその所作を傍にある日陰のベンチでぼんやりと眺めながら長く息を吐いた。

「思ってますよ」

火神くんはきみとは違いますから。もう一度繰り返して、ボクはかれの投げたボールがまっすぐにゴールに吸い込まれるのを見た。かれの存在は高校バスケ界においても異端だった。全中を制覇したころもまた、異端だった。キセキの世代においても頭一つかれは抜きんでていたし、おそらくこれからもずっとそうだろう。

「ふざけやがる。俺に勝つのは、俺だけだ」
「そんなのわかりません。ボクは火神くんや部のみんなと、必ずきみに勝ちます」

必ずだ。先の大敗からだいぶ時間も経ったしボクらは強くなろうとした。そしていまたまらなく、バスケが楽しい。
立ち上がって、青峰君がシュートしたボールのリバウンドを取った。片眉を上げた青峰君がこちらを見る。シュートを投げた。この距離ではさすがに外さない。ゴールから落ちるボールを、横から腕を伸ばしてきた青峰君がかすめ取った。

夏休みの合宿のせいでボクはだいぶ焼けたはずだけど、やっぱり青峰君にはかなわない。むしろボクが白くみえるから不思議だ。もともと日焼けをすると赤くなってひりひりして終わるタイプだからだろうか。

青峰君がゴールを叩き込む。ボクのパスはもう恐らく二度と青峰君に回らないんだろう。青峰君はすでにボクを、影を必要とはしないはずだった。光が強くなると影が濃くなるのは、それを光が望むからなんだけれど。

「あんまり笑わせんなよ、テツ」
「ボクは冗談が嫌いです」

汗がこめかみを伝う。このひとはこんなことが言いたくてボクをここまで連れてきたんだろうか。相変わらずだ。全中三連覇をする前はこんなひとじゃあなかった。ぶっきらぼうだけどほんとうはとてもやさしくて、バスケがだいすきな、それこそ火神くんみたいなひとだった。

「…どうしてアイツにした。確かに跳躍力はあるが――、あれなら黄瀬や緑間でもかわらなかったんじゃないのか」
「もし決勝戦で。残り五秒だったとしても、火神くんはボクにパスを回すでしょう。それでかれはゴールまで走る。ボクはかれにパスをする。だから、ボクはかれと一緒に日本一になろうと思った」

ボクはかれの影になろうと思った。かれの光は確かに青峰君のそれほど強烈ではないかもしれないけど、ボクにはとても心地よい。
ぎり、と、青峰君が奥歯を噛み締める音が聞こえた。ダンクを叩きこむ。ゴールが揺れる。ここのゴールはみんなのものなんですから壊したらだめですよ、言おうと思って足を止める。物音がした。

「…先客、って、お前、青峰!?」

高架下にあるこのコートに、金網をがちゃがちゃと開けて誰かが入ってきたらしい。声がして振り向くと、ボールを脇に抱えた背の高いひとが立っている。聞き慣れた声と足音に思わず眼を丸くしていた。むこうもボクに気付いたようで、くろこ、と、ボクの名前を呼ぶ。かがみくん。

「オイオイ、お前のとこは主力が二人も練習サボってんの?」
「きょうは二年生の先輩が模試なので部活がないだけです。…かえります」

リバウンドを長い腕で抱え止めた青峰君が、にやりと笑いを深める。ボクは頭を抱えたくなった。ここで火神くんに青峰くんと一対一をやらせるわけにはいかない。おそらく今の青峰くんは機嫌が悪い。下手に競って負けて火神くんの自信を揺らがせるわけにはいけないのだ。

「いい所で会ったな、オイ!この間の借りを、」
「火神くんちょっと」
「返させてもらうぜ青峰…!」
「火神くん」

ずるずると金網の向こうに火神くんを押しやりながら、ボクはいちどだけ肩越しに青峰君をふりむいた。綺麗な弧を描いてボールが跳ぶ。リングに当たって、跳ねた。

(え、)

外すなんてらしくない。かれのシュートは緑間くんほどの精度があるわけではなかったけれど、それでも。

「おい黒子!なにしやがる!」
「ボク、困ってたんです。本屋に欲しい本があるんですが手が届かなくて。お店のひとがおばあさんなのでボクが声をかけたら心臓が止まってしまうかもしれないのでよかったら本とってくれませんかね」

まったくもって思いつきだったけれどボクはさっきマジバで長々悩んでいたことを火神くんに頼んでみた。とりあえず今コートと青峰君から火神くんを引き離せたらそれでいい。がしゃん、と音を立ててフェンスが閉まった。青峰君がドリブルをする鋭い音が聞こえてくる。外に止められていたマウンテンバイクは火神くんのだろうか。

「…お前、今でも青峰とバスケすんの?」

それを聞いてどうやら諦めてくれたらしい火神くんがマウンテンバイクを押す。じりじりと焦げ付く日差しが眩しい。そういえば火神くんもだいぶ焼けたなあ、と、ぼんやりその高い位置にある顔を見上げた。

「まさか。さっきマジバであって連れてこられただけです」
「大変だな、お前も…」

苦笑いをした火神くんは、そういってボクの頭をぐしゃりと撫でた。手の位置的にちょうどいいのかもしれないけれどさすがにボクにもプライドってものがあるんですけど。そう主張をすれば、わらう。ボクは火神くんの笑顔がすきだ。ボクにはすこし、眩しい。

「しゃーねえなあ。とりあえずじゃあ本買いにいくか。そのあとマジバいこうぜ」
「ありがとう、火神くん。四杯目は新境地ですががんばります」
作品名:夜明けを待つ隣にきみ 作家名:シキ