夜明けを待つ隣にきみ
「お前にはバニラシェイク以外の選択肢はねえのか」
夏の日差しが暑い。ボールに触れた手が、熱い。青峰君のなにか言いたそうな眼差しが脳裏をかすめたけれど、ボクはそれを無理やりに押しのけた。いつか、いつの日にか。火神くんとボクでかれに勝ったら、かれはまた前みたいにバスケを楽しいと感じられるだろうか。
「…火神くん、火神くん」
「あァ?どうした」
「火神くんは、バスケ、楽しいですか」
「楽しくなきゃやってねーっての」
「同感です」
「わけわかんねえ!」
信号に足を止められる。セミの鳴き声につられて空を見上げれば、揺らぐ陽炎の向こうに広がる青空がことのほか眼に沁みた。あんまりにも空が高くて、広い。
「きみとバスケをすると、とても楽しいです」
青峰君にもいったように。かれはきっと、試合終了最後の一秒までチームみんなとバスケをする。だから、ボクは、かれの影でありたいと思うのだ。最後の一秒前だって、かれにボールを繋ぐために。
「―――そーかよ」
同じように空を見上げた火神くんが、そういってぽん、とボクの肩に拳を当てた。つられて片手を上げて、ボクはかれの拳に拳を当てる。伝わる熱が今度は胸にひどく沁みた。
作品名:夜明けを待つ隣にきみ 作家名:シキ