lullaby.
やさしい夢を見てほしい。
やがて夢と現の時間が逆転してしまった時に、
あなたがさみしい思いをしないように。
あたたかでしあわせな夢を見ましょう。
もうあなたの平穏を脅かすものはないのだから、
安心してゆっくり眠るといい。
大丈夫、わたしはもう、
あなたのそばにはいないから。
夢の中だけでもしあわせになって。
プログラムを起動します――
“Psychedelic dreams”
暗いところから目を覚ます。
ゆっくり目を開くと微笑むあなたが見える。
「おはようマスター、今日は顔色が良いね」
もう何度目か、モニター越しの挨拶は決まって、こう。
あなたがモニターに触れて、俺がその手に触れる。
お互い、無機質な感触しか手には残らないけれど。
それでもこの瞬間が、お互いにとってすごく大切で。
いとおしい時間だった。
「さぁ、次はどんな夢がいい、マスター?」
そしてあなたは、短い時間だけ目覚めて、あとは昏々と眠りにつく。
会えない時間は日に日に長くなっていく。
暗いところで、俺はずっと考えていた。
「終わったよ、サイケ」
マスターのものとは違う声がかけられる。
振り返ると白衣を身に纏った青年が見える。
俺の数少ない知り合いの一人だ。
「ありがとう、先生」
「僕はこっち専門じゃないからね、どうなっても知らないよ?」
「もしもの時は、もう一度インストールしてよ」
「それはもう、俺たちの知っているサイケじゃない」
「そうだね」
にっこり笑ってみせると、先生は困ったような顔をした。
だけど俺が引かないことはよくわかっているから。
先生はため息だけをついて、もう止めなかった。
「あいつ最近、対ウィルス用プログラム作ったって言っていたけど」
「大丈夫だよ、俺はウィルスじゃないもの」
エンターキーを押すのは先生だ。
きっと迷っているから、話が長いのだろう。
何度か言葉を呑み込んでいるようだった。
先生に全ての引き金を引かせるようで申し訳ない。
だけど俺は行かなくてはならない。
「・・・早く帰って来るんだよ、サイケが居ないと静雄が寂しがる」
「うん、本業は忘れないよ。マスターをよろしくね、先生」
先生はついにキーを押した。
ガリガリと機械音がヘッドフォンの外から響く。
ウィンドウが次々に開き、エラー音も聞こえた。
失敗するかと思ったが、何とか持ち直したようだ。
足元から砂のように消え始めた。恐怖がないと言えば嘘になる。
感覚が消え去る前、自身に言い聞かせるように呟いた。
「オリハライザヤに、会ってくるよ」
やがて夢と現の時間が逆転してしまった時に、
あなたがさみしい思いをしないように。
あたたかでしあわせな夢を見ましょう。
もうあなたの平穏を脅かすものはないのだから、
安心してゆっくり眠るといい。
大丈夫、わたしはもう、
あなたのそばにはいないから。
夢の中だけでもしあわせになって。
プログラムを起動します――
“Psychedelic dreams”
暗いところから目を覚ます。
ゆっくり目を開くと微笑むあなたが見える。
「おはようマスター、今日は顔色が良いね」
もう何度目か、モニター越しの挨拶は決まって、こう。
あなたがモニターに触れて、俺がその手に触れる。
お互い、無機質な感触しか手には残らないけれど。
それでもこの瞬間が、お互いにとってすごく大切で。
いとおしい時間だった。
「さぁ、次はどんな夢がいい、マスター?」
そしてあなたは、短い時間だけ目覚めて、あとは昏々と眠りにつく。
会えない時間は日に日に長くなっていく。
暗いところで、俺はずっと考えていた。
「終わったよ、サイケ」
マスターのものとは違う声がかけられる。
振り返ると白衣を身に纏った青年が見える。
俺の数少ない知り合いの一人だ。
「ありがとう、先生」
「僕はこっち専門じゃないからね、どうなっても知らないよ?」
「もしもの時は、もう一度インストールしてよ」
「それはもう、俺たちの知っているサイケじゃない」
「そうだね」
にっこり笑ってみせると、先生は困ったような顔をした。
だけど俺が引かないことはよくわかっているから。
先生はため息だけをついて、もう止めなかった。
「あいつ最近、対ウィルス用プログラム作ったって言っていたけど」
「大丈夫だよ、俺はウィルスじゃないもの」
エンターキーを押すのは先生だ。
きっと迷っているから、話が長いのだろう。
何度か言葉を呑み込んでいるようだった。
先生に全ての引き金を引かせるようで申し訳ない。
だけど俺は行かなくてはならない。
「・・・早く帰って来るんだよ、サイケが居ないと静雄が寂しがる」
「うん、本業は忘れないよ。マスターをよろしくね、先生」
先生はついにキーを押した。
ガリガリと機械音がヘッドフォンの外から響く。
ウィンドウが次々に開き、エラー音も聞こえた。
失敗するかと思ったが、何とか持ち直したようだ。
足元から砂のように消え始めた。恐怖がないと言えば嘘になる。
感覚が消え去る前、自身に言い聞かせるように呟いた。
「オリハライザヤに、会ってくるよ」