lullaby.
それは、深夜の出来事。
いつものようにマスターがパソコンの電源を落とし、
真っ暗な時間が訪れた。
何となくそのまま目をつぶる気になれなくて、
膝を抱えて鼻歌を歌っていた。
歌詞はあまり覚えていない。言葉はまだ難しい。
でもメロディはすぐに覚えられた。
口ずさみながら暗闇の向こうをじいと見た。
ちか、ちか、と。光が見える。
赤、ではない、深くて濃い、ピンク色のような。
ちかりちかりと光っている。
一瞬、ウィルスかと思ったが感覚的に違う。
すぐに排除できるように態勢を整えながらも、
俺はその光から目を逸らさずに立ち上がる。
光が、どんどん大きくなる。
そしてそれが自分と同じくらいの高さになる。
一瞬、目を閉じてしまうほど輝いた。
「・・・あれ、電源が落ちているのか」
次にまぶたを開いた時にはもう、現れていた。
真白なコート、濃いピンク色のヘッドフォン。
切れ長の目に少年の面影を残した横顔は。
いつもモニターの向こうで見ていたそれだ。
「誰だ」
「ん?あぁ、噂のウィルスプログラムさんかな?」
やっとこちらを見た侵入者はにっこりと笑う。
その笑顔もマスターとそっくりで、思わず身を引いた。
するとあちらも笑っていた顔がいきなり崩れる。
眉間に皺をよせて、俺の顔をじいと見る。
「・・・きみ、名前は?」
「つ、つがる」
「・・・そう。俺はサイケ。よろしくね、つがる」
笑顔とともに差し出される手。
いつもはモニターの向こうで見ているだけだった。
その笑顔も、手も、指も。
何だか怖くて迷っていると、伸ばしかけた手を勝手に掴まれる。
驚いて振りほどこうとしたが、しっかりと握られてしまう。
そして無邪気に笑うサイケと目が合う。
まるで悪戯をした子どもみたいなその笑顔は、
マスターは持っていないものだった。
こうして俺とサイケは出会った。